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(な、何……!?)
流れるように自然に触れてきた男の人の手に驚いた香澄は、のけぞった。
男性の手は、香澄の髪からするりと抜けていったのが、ほんの少し香澄は名残惜しい気がした。
「あ、あの……髪……」
「え?」
「何で……私の髪、触るの……で、しょう?」
男性は、キョトンとした顔で自分の手を見てから、くすりと口角を少し上げるだけの
微笑を浮かべた。
まるで、恋愛ゲームの選択肢直前で見せるような、何らかのフラグがこもっているよな微笑みに、香澄の体は強張った。
「ああ、すみません。つい」
「つい……何でしょう……?」
(人の髪を、ついで触るものなのだろうか)
「とても、気持ちよさそうな黒髪だと思いましたので」
「は、はい!?」
「それに、香りもとても良く……触れずにいるなんて、できませんでした」
「は、はあ……?」
髪の毛の香りは、このスイートルームのシャンプーのお陰だとしても、香澄は戸惑った。気持ちよさそうの言葉の真意もだが、そんな理由でほぼほぼ初対面の女の髪に、普通の人は触れるものなのだろうかという疑問が、頭を占めた。
香澄は、そんなことを考えてしまう程に、人付き合いに慣れていなかった。
「次は、ちゃんと許可を取りますね」
男性はそう言うと、手のひらサイズのミルクピッチャーに入っているミルクを、チョコレートドームにたらりとかけた。
ミルクによってトロトロに溶けたチョコレートドームのてっぺんから、隠していた綺麗なデザートプレートが見えて、香澄の心はときめいた。
「さあ、これも食べてしまいましょうか。その間に、ご希望の飲み物を注文しておきましょう」
男性は、カクテルメニューを香澄に見せる。
カシオレしか飲んだことも、種類も知らない香澄には、その名前だけで一体どんな味なのか想像もつかないものばかりが書かれていた。
(この中から、何を選べと?)
とても選べそうにないと、香澄が思ったちょうどその時だった。
香澄の口元に、ミルクで蕩かされたチョコレートの味がふんわり広がった。
「んっ……!」
(甘くて美味しい……!)
男性は、スプーンで香澄に食べさせながら、にっこりと微笑みながらこう言った。
「よろしければ、僕が選んでも?」
その言葉の本当の意味など探れるはずもない香澄は、チョコレートを口に含んだまま何度も頷いた。
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