1.予想外すぎる、この出会い

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 12月16日、午前11時半。  何とか修正指示を反映させた修正稿を、指定されたリミットギリギリで提出をした香澄は、徹夜で走りきった体を休ませるために布団の中に潜り込んだ。  しかし、身体はどっと疲れているというのに、脳のアドレナリンのせいなのか、ちっとも眠れそうになかった。代わりに脳内に浮かぶのが、さっき受け取ったメールに書かれていた 『今後は依頼できなくなるかもしれません』  という冷たい文章。  締切前の修羅場は肉体的に辛い時もあるが、本質的にシナリオライターの仕事は職人気質を持つ香澄にはしっくりきていた。天職だとすら思っていた。ただ、一方で問題がないわけではなかった。  今の香澄の契約形態は業務委託。雇用という形で守られている社員と違い、契約書だけで繋がった危うい関係性だった。  この契約形態は、ちょっとしたことで切られるリスクがあるということを、香澄が尊敬する先輩シナリオライターから先日聞いたばかり。  だからこそ、目を瞑ろう、眠ろうと考えれば考えるほど、自分はこのままではシナリオライターを続けられないかもしれないと不安になった。   「先輩に相談してみようかな……」  先輩も香澄と同じように締切に追われていた身で、かつ夜行性。もしかすると今の時間寝ている可能性もあった。けれども、どうしても1人で抱えるのが辛かったので、まずはLINEで「起きてますか?」のスタンプを送ってみた。  それから数十分は応答がなかった。  けれども、香澄がスマホの画面を見ながら、うとうとと舟を漕いでいる時だった。 「どうしたの?」  と、香澄が待ちに待った返事を受け取ったのは。  香澄は急いで飛び起きると、PCを使って先輩にZOOMのURLを送りつけてから自らもルームに飛び込み、先輩が来るのを今か今かと待った。 ……ちなみに、その先輩と香澄はもっぱらZOOMでしか会話をしたことがなかったりする。それも、カメラは切って音声のみの状態がデフォ。  世界のどこかにいる誰かが、顔を出さなくても大丈夫なツールを誰かが開発してくれたおかげで、香澄の引きこもり&対面恐怖症は拍車がかかってしまったのは、また別のお話……。
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