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髪は、黒。
無造作に掻き上げたパームアッパーで、34歳と言われた年齢より若く見える。
若く見えるのは髪型だけでなく、彫りの深い顔にも張りがあり、小皺ひとつ無い。
背は高く、それに似合った筋肉も発達している。
一言でいえば、イケメン、ナイスガイ、いい男、だ。
そんな哲哉を前にし、玲衣は身をすくませていた。
「よ、よろしくお願いします」
「ようこそ、玲衣。私が今日から、君のオーナーだ」
人の上に立つ人間が持つ、威圧感。
哲哉の第二性は、アルファだった。
対して玲衣は、小柄な体に、細い手足。
まだ幼さの残る可憐な面立ちに、白い肌。
彼を知らない人間が見ても、まずオメガと認識するだろう。
シンプルだが品のよい、広い室内をおどおどと見渡し、玲衣は思った。
(きっと、すごいお金持ちなんだ。この人は)
でなければ、人買いなんかできるはずもない。
玲衣は、父親に売りに出された。
離婚した母の記憶は、ほとんどない。
父はギャンブルにうつつを抜かし、気づけば多額の借金を抱えていた。
彼は、実の息子を売り払い、返済に充てたのだ。
だが、そんな玲衣の境遇は、哲哉には興味のない事だった。
今、彼がここにいる。
私の手の中に、落ちている。
それだけが、全てだった。
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