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モデルを終え、服を着ている怜の傍に、一人の男が現れた。
「初めまして。池崎です、よろしく」
「あ、初めまして。僕、白石 玲衣です」
「僕は、この屋敷の管理を任されているんだ。君のお世話も、ね」
「よろしくお願いします」
池崎は、髪を短く整えた、30代後半の快活な男だった。
第二性は、ベータ。洋裁から重機の操作まで、何でもこなせるオールマイティーな人間だ。
では、と、そんな池崎は玲衣を部屋へと案内した。
玲衣に与えられた個室は、部屋ひとつなのに実家一軒分より広かった。
「すごい……」
「バス、キッチン、書斎。全て揃っているので、気兼ねなく使ってね」
「はい」
その広さにも驚いたが、部屋を飾る美術品の美しさにも玲衣は心奪われた。
「きれいな花瓶ですね」
「お屋敷の庭に花が咲いているので、好きなように飾っていいよ」
「素敵な香炉」
「お香は好き? 何種類か持ってくるよ」
そして玲衣は、壁を彩る絵画の前に足を止めた。
それは白いカンバスだったが、純白ではなかった。
いろいろな明度彩度の白が、複雑に塗り込まれているのだ。
「面白いですね」
「それに気づくなんて。君には哲哉さまに、気に入られる素質があるね」
「気に入られる、なんて……」
あの、少し怖い哲哉に自分が気に入られる、とは考えられない玲衣だ。
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