883人が本棚に入れています
本棚に追加
玲衣が、少し怖い、と考える哲哉は、ディナーの時も無口だった。
話すのは、池崎とだけ。
「今日の肉は?」
「五島牛が手に入りましたので。肉質が柔らかです」
「うん。美味い」
それでも玲衣は、誰かと一緒に食事ができる喜びを噛みしめていた。
こんなに分厚いステーキも、お目にかかったことがない。
いつも独りで、食うや食わずの生活をしていた時とは、大違いだ。
それで、少し笑みが生まれた。
哲哉は、その笑みを不思議に感じたが、叱ることはしなかった。
「玲衣、美味しいか?」
「はい。とても、おいしいです」
「君はよく食べて、もう少し体を作った方がいい」
「はい」
この時、初めて玲衣は哲哉にぬくもりを感じた。
(体の心配を、してもらえるなんて)
あとはただ、食事を続けるだけの哲哉だったが、玲衣はその姿に安堵を覚えていた。
最初のコメントを投稿しよう!