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バスから上がった玲衣を、池崎が待っていてくれた。
「パジャマとガウン、用意しておいたから」
「ありがとうございます」
「今日は、夜伽があるの?」
「はい……」
「じゃあ、哲哉さまの部屋へ案内するね」
のろのろとパジャマを着る玲衣の姿は、はかなげだ。
気が進まないに違いない。
池崎は、そんな玲衣に声を掛けた。
「哲哉さまは、孤独な方なんだ。よろしく頼むよ」
「孤独?」
そういえば、哲哉以外の家族がいる気配もない屋敷だ。
「ご両親を、事故でいっぺんに失くされてね」
莫大な遺産を元に、今は投資で稼いでいるという。
「お金は余るほど持っているけど、愛情は希薄な人なんだ」
「そうだったんですか」
「君みたいに、モデルを今までも受け入れて来たけど。皆、逃げ出しちゃって」
僕も、逃げ出したくなるのかな。
だけど……。
『君はよく食べて、もう少し体を作った方がいい』
この言葉だけで、玲衣は嬉しかった。
彼の傍に、居たいと思った。
「僕は多分、大丈夫と思います」
「よろしく頼むよ」
そして玲衣は、哲哉の部屋のドアをノックした。
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