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「大丈夫か、玲衣」
「はい。僕、平気です」
だから。
「だから、もう。もう、行きましょう」
ね、と微笑む玲衣は、泣き笑いの表情だ。
「私と一緒に、来てくれるか?」
「はい」
池崎が、父親から手錠のカギを奪い、玲衣を自由にした。
「可哀想に。手首に傷が」
擦れて赤くなった玲衣の手首を、池崎は優しくさすった。
「行きましょう、哲哉さま。もう、こんな所に長居は無用です」
きっぱりとした池崎の声に、哲哉も玲衣も、歩き始めた。
父親だけが、いつまでも往生際が悪かった。
「ちくしょう! 訴えてやるぞ。人身売買に、傷害罪!」
「好きにしろ。逃げも隠れもせん」
哲哉の冷たい返事に、父はうなだれた。
格が違う。
おそらく、俺がどうあがいても、敵わない男。
それが、神森 哲哉だった。
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