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 羽織っていたフード付きのマントとリュック、腰に差した黒を基調とした鞘に納められた剣は歩きづらい森の中を一歩また一歩と歩く度に揺れていた。それと共に口からは少し荒れた息がいつもより早いテンポで吐き出される。  どれくらい歩いたのかはもう分からない。それに口の中は砂漠のように渇いていた。もう飲み込める唾もない程に乾ききった口を潤そうと僕は足を止め近くの木に凭れた。そして剣とは反対側に下げていた水筒に手を伸ばす。蓋を開けカラッカラに渇いた時に飲む水の美味しさを想像し、それを期待しながら水筒を傾けた。  だけど中から出てきたのはほんの一滴。どれだけ傾けても、どれだけ振ってもそれ以上の水分は無かった。どうやら僕のオアシスは枯れてしまったようだ。 「うそぉー」  思わず落胆の声が零れる。だけど無いものは仕方ない。  そしていつまでもこの場所に居たところで水が手に入る訳じゃないし、ここは我慢して歩こう。そう決めると足を動かし始めた。今の僕を動かしているのは目的達成への意志。ではなく喉を潤す水を求める欲望だった。  それから疲れと水不足のせいで少し覚束ない足取りのまま進んでいくと森の終りが見えてきた。 「やったぁ。村だ」  限界まで乾いた口からは希望に潤った声が姿を見せ、フードに隠れた双眸でどんな王国よりも魅力的な小さな村を真っすぐ見つめる。その光景だけで思わず唾を呑んだ。正確には唾が出せるほどの水分は残されておらずその動作だけだったが。  そして水分を欲する体に急かされるように早足で村に向かった。村の前まで来ると一度深呼吸をする。大きく吸って大きく吐いた後、意を決すると中へ足を踏み入れた。  村に入ってすぐ中央の井戸ではふくよかな女性が背を向けしゃがみながら何かをしているのが目に入った。僕はそのまま視線を逸らさずにその女性へ近づく。 「あの、すみません」  内気な性格ということもあり声は少し怯えていた。 「ん? 聞き覚えのない声だね? 旅のお方かい?」  女性は手が離せない状況なのか背をむけたまま返事をした。 「はい。あの、少しでいいので水を分けてもらえませんか?」 「あぁ、もちろん構わないよ」  女性はそう言うと腰に巻いたエプロンで手を拭きながら立ち上がり振り返った。  だけど僕の顔を見た途端、先ほどまでの気さくな雰囲気が一変する。その表情には誰が見ても明らかな嫌悪感が浮かんでいた。 「いや、アンタにやる水はないよ! さっさとこの村から出て行きな!」 「ほんの少しだけでいいので……」 「ふざけるんじゃないよ! 誰か! 誰か!」  女性の叫び声に村の男たちが集まり出だした。 「どうした? どうした?」  そして女性同様に男たちも僕を見るや否や顔を強張らせる。その目はまるで害虫を見るようなそんな目付きだった。 「何だお前! 勝手におらたちの村に入って来るな! 出てけ!」 「そうだ! 出てけ!」 「出てけ! 出てけ!」  男たちのうち何人かはピッチフォークやバチヅルなどの農作業用具を持っており、それを突きつけてきた。
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