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「早く出て行け!」 「お願いします。水を……」  ほんの一口だけでも水を飲みたい。その一心でその場に危座し頭を地に着くまで下げる。  だけど一刻でも早く村から追い出したかったのだろう村人は慈悲などなく罵声を浴びせてきた。それと同時に石ころが隕石のように飛んでくる。  そして丁度頭を上げた時にその石ころの一つが額に直撃。鈍痛が走ると共に温かいモノが流れ始めるのを感じた。 「さっさと出て行きな! 二度とこの村に来るんじゃないよ!」  このままだと殺されてしまう。そう感じた。  だからこれ以上頼み込むのは止めて逃げるように村から出て行った。僕が外に出ても村から離れるまで戻ってくるなと言わんばかりに睨みをきかせ罵声を浴びせ続ける村人たち。  そんな彼らの嫌悪感を通り越した敵視が背にグサグサと刺さりながらも再び森に戻ると更に奥まで走り続ける。とにかく無我夢中で走り続けたけど元々限界だった体はそう長く走り続けられなかった。段々足がもつれ始めついには木の根に躓き豪快に転んでしまう。 「ハァ……ハァ……。水……を……」  額や体中の痛みもあったがそのどれより喉の渇きが最優先されていた。地面に這いつくばり視界が霞む中、砂漠で遭難した人のように水を求め手を伸ばす。 「もう……無理……なのか……な」  諦めの心が顔を出し始めたその時、川のせせらぎが聞こえた。ような気がした。  だけど今の僕にとってその音が幻聴かどうかを考える余裕はない。地を這いながらその音の方へ向かった。ゆっくりと。だが着実にしばらく地を這って進んだ。  そんな僕の目に映ったのは、希望、奇跡、神のご加護。木々の向こう側には陽光を浴び煌めく川が見えたのだ。それはどんな宝石よりも、天に流れる天の川よりも輝いて見えた。その美しきお姿を目の当たりにした僕は体中に残された力をかき集めて振り絞り、一秒でも早く辿り着こうと這う。  そしてついに飲んでも飲みきれないほどの水に辿り着いた。もう水のことしか頭にない僕は顔を川に突っ込み無我夢中で水を飲んだ。もし誰かがこの光景をみたら溺れていると勘違いしてしまうだろう。それでも止めることはできず水中で口を大きく開け酸素よりも優先してゴクゴクと飲む。その勢いは止まらない。  それからもこのまま川を干上がらせられるのではと思う程に飲み続けたが限界は意外と呆気なく訪れた。結局飲めたのは川にとって誤差にすらならない量だろう。  そして水を腹一杯に補給すると川から顔を上げ、逆に不足した酸素を大きく何度も吸う。  少しの間、吸って吐いてを繰り返して息を整えると生きてるという実感が体を満たした。生き返った。そう表現するのがパズルのピースのようにピッタリと嵌まる。  そんな感覚を味わいながらリュックを雑に下ろして川沿いに寝転がり休憩を取った。             * * * * *          青年の名は、フィリブ・アルナート。           これは世界中に嫌われた勇者が          それでもなお世界を救うお話のほんの序章
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