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 この世界は魔王という存在が現れ、魔物という化物が徘徊し始めてからより一層物騒になった。魔物は様々な姿形に大きさをしていてその強さも個体で異なる。そして老若男女、誰彼構わず人間を見ると襲い掛かるという恐ろしい存在。しかも一部の魔物は何やら不思議な力を持っているらしい。  この魔物と魔王という存在のせいでこの世界の人たちは気軽に外へ出られなくなった。だけど同時に強い人たちがより多く稼ぐようになったからその人たちからすれば全部が全部悪いわけでもないのかもしれない。  それでも魔王の恐怖は確実にあって、世界は物語に出てくるような、僕ではない『勇者』を求めいた。はずだった……。             * * * * *  世界のある場所に『ホルテック』という町がある。出入りするのは商人や時折通る旅人ぐらいのその町は大きくはないけど人々が互いを支え合っている良い町だ。  そんなホルテックから少し離れた場所にある森を少し奥へ進んだところに一軒の家がある。森の中にあるせいかコテージにも見えるその家から、僕はかごを背負って出てきた。まだ朝日が辺りを照らし始めた時間帯。それに加え雪が降るほどではないものの対策なしではすぐに体が冷えてしまう気温だった為、しっかりと防寒対策はしていた。がしかし、 「うぅぅ。さむっ」  予想以上の寒さに身震いしながら思わずそう呟いく僕の口からは言葉と共に吐き出された息が視覚的に見えた。だけどそれはいつものことなので特に気にせずマフラーの隙間を出来る限り無くそうと直す。その最中、少し前に友人に言われた言葉を思い出した。 『お前って少し童顔で見るからに無害そうな風貌だよな』  何でそんなことを思い出すのかと思ったけど、どうやら童顔であることをどこか気にしているらしい。  それもそうだ。僕は狩りや動植物のことなど色々と教えてくれた師匠でもあるおじいちゃんに憧れている。もうこの世にはいないけど、あの立派に生えた髭と歴戦の兵士のように鋭くも優しい顔。  僕もあんな風になりたい。子どものころからずっとそう思ってる。だから童顔と言われ少し気にしているのかもしれない。 「でもまぁどうしようもないか」  マフラーを巻き終わり勝手に出てきた記憶も片付けると数段しかない階段を降り森へ歩き出す。口から白息を漏らしながら森を進み木を拾い薬草や果実を探した。  すると僕の前を一匹の鹿が走って通り過ぎる。 「あっ!鹿だ」  思わず出た言葉と共に鹿は森の中に消えていった。それを僕はただただ眺めるだけ。 「最近お肉の貯蓄が減ってきたからなぁ。今度狩りをしないと」  そんなことを呟きながら更に歩みを進める。  そしてかごの中に山菜やキノコなどが少し溜まった頃、大きく口を開けた洞窟を見つけた。 「こんなところに洞窟なんてあったっけ?」  長い間、この山に出入りしているけどそれは初めて見る洞窟。まるで誘うように大きく開いた入り口。それを眺めていると怖いという気持ちより好奇心が勝り洞窟へ歩を進め始めた。 「でも、熊とかいたらヤバいよね。引き返そうかな」  恐怖が顔を出すものの好奇心に押し退けられ足は止まることなくどんどん奥へ進んでいく。洞窟はあまり広くはなく一本道で歩く度に足音が反響し洞窟中を駆け巡った。  それから五分程歩くと行き止まりに辿り着いた。
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