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 だけどそこにあったのはただの壁ではなく、周りを外堀のように薄い水が囲った台座だった。底がよく見えるほど澄んだ水に天井から水滴が一定のリズムで落ちている。そしてその台座は天井に丸く開いた穴からスポットライトのように差込んだ光を浴びていた。  だけど僕の目が真っすぐ見ていたのは光を浴びているのは台座ではなくその台座に堂々と刺さった一本の剣。それはまるで祝福を受けているように神々しく堂々とした剣だった。 「おぉ……。すごい」  弓やナイフは扱えるけど剣を持ったことがない僕にとってそれは新鮮だった。  そして自分には無い自信を持っているようなその剣に少し心惹かれた僕は台座の前まで足を進めた。間近で見るとその剣はより神々しくて魅力的だった。 「でも何でこんな物がこんな所にあるんだろう?」  ふと頭に浮かんだ疑問だったけど考えても仕方ないと思いすぐに考えることを止めた。  そして視線を再び剣へ。この剣を見ているとまるで玩具を目の前にした子どもみたいにワクワクする。 「少しなら持ってみてもいいかな?」  誰に尋ねるわけでもなかったが、いいのか分からない不安を少しでも無くそうと呟いていた。だから当然返事は無くて水の滴る音だけが響く。  少し剣を見ながらどうしようか悩んだけど、僕はその剣へ手を伸ばした。楽しみだけど少し緊張しながら柄へと手を伸ばしていく。  そして柄を握ると引き抜こうと力を入れた。だけど僕が非力なのかこの剣が固く突き刺さっているのか、はたまた台座が意地悪をしているのか全く抜けないどころかビクともしない。 「あれ?」  少し悔しいのもあったから僕はカゴを濡れない場所に置いて再挑戦した。今度は両手で。少し両手をブラブラとして一度深呼吸。 「よし!」  そう意気込んでから柄へ手を伸ばした。そして息を止めて持てる力の全てを出し切る気持ちで剣を上へ持ち上げる。数秒だけど息を止めて全力を出し続けるのはキツくてすぐに限界がきそうだった。 「(もう無理……)」  僕が一旦諦めようとしたその時。張ってた紐が切れるように何の前触れもなくその剣が抜けた。あまり突然だったから引き抜こうとする力で僕は後ろに倒れた。そのまま尻餅をついて水を跳ねさせたのだ。 「いてて……」  お尻の痛さが僕の中で最優先事項として横入りしてきたがすぐにそれを処理すると右手に目をやった。  そこには倒れてもちゃんと握りしめた剣。僕は何かを考えるより先にそれを掲げるように目の前まで持ってきた。水に濡れ差した光を浴びたその剣はとても……。 「綺麗だ」  見惚れてしまう程に綺麗なその剣は、(何度も言うが)まるで神の加護でも受けているようだった。気が付けば僕はぼーっと剣を眺めていていた。 「あっ」  ハッと我に返るととりあえず立ち上がりもう一度剣を眺める。思ったより重くて思ったよりテンションが上がった。それと気のせいだと思うけど不思議と強くなった気がした。  その気持ちを胸に抱きながら軽くその場で振ってみる。イメージでは歴戦の猛者のように鋭く空を切っていたが現実はそう理想的じゃなかった。虫も殺せない程にゆっくりとしかも直線じゃなくて曲線を描いていた。何度か振ってみたがそれは変わらず見るからに弱そうな素振り。 「やっぱり筋肉とか足りてないモノが沢山あるんだろうなぁ」  少し自分にガッカリしながらも当然という気持ちもあり、そんなもんかと思いながら台座の前まで戻る。  そして一応ちゃんとお礼を言ってから台座にもう一度剣を刺した。これを必要とする人の為に。 「弓ならもっと上手いんだけどなぁ」  言い訳のように呟きながらカゴを背負うと僕は洞窟を後にした。  それから森を歩きつつ色々探しているとベリーを見つけ、足を止めかごを下ろす。  するとそこには目を瞠る物が入っていた。 「あれ?何でこれがここに?」  かごに入っていたのはあの剣。確かに台座に戻したはずだけどなぜかかごに入っている。  しかもさっきは無かった黒を基調とした鞘に収まって状態で。疑問を感じながらも僕はその剣を手に取り半分程だけ鞘から出してみた。当然ながら鞘からは先程と同じ剣身が顔を覗かせた。
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