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【2】人外でもタイプです
翌朝、日の光を感じて目を覚ますと、テディベアの隣にパジャマ姿の可愛らしい少年がちょこりと座っていた。一瞬、自分の妄想の具現化なのかとドキリとする。
(夢か……にしても、どタイプだな)
稀有なほど柔らかそうな髪に丸い頬、滑らかな肩のラインをじっくり眺めていると、そのうちぱちりと目が合った。夢だからと余裕で寝転んでいると、その対象がふわりと近づいて来た。
『あの、僕のこと見えます?』
話しかけられたことに軽く驚きながら、それでもぼんやりと応じた。
「うん。まあ、これ夢だしね」
『夢――じゃないですよ?』
「夢じゃない?」
『はい。今は朝の八時四十分ですね』
「へー……」
示されたデジタル時計の数字と曜日を流し見して、永は再び寝ようとしたものの慌てた相手に阻まれた。
『ちょっと、寝ないでください。これでも気を遣って、自然に起きるまで待ってたんだから』
「何かしつこい夢だな」
『だから夢じゃないですって!』
強引に叩き起こされた永は、ようやく覚醒して目の前の現実を受け入れた。
「幽霊って、昼間でも見えるんだな。それで、何でここに?」
高校生か、それとも中学生だろうか? カーテンを開けた明るい室内で半透明な姿の少年に改めて問うた。
『僕、この子を探していたんです』
「このテディベア?」
『はい。七歳の時に両親から誕生日プレゼントで貰ったんですけど、つい最近出先で失くしてしまって。その後のことは良く覚えてないんですけど、気が付いたらあのお店に並んでいるところに僕もいて。でも触れないし声も聞こえないし、どうしようかと思ってるうちにお兄さんが』
「俺が買って帰ったってことか」
「はい、だからついてきちゃいました」
憑いてきた、と脳内変換するとぞっとしないでもないが何しろ見た目がどタイプなので怖いとも感じなかった。きっと生前の執着が強すぎて、無意識に引き寄せられていたのだろう。ショップに置かれた経緯は不明だが、そこまで大切にしていたぬいぐるみを失くしたことを純粋に気の毒に思う。
「君の家は? 近いなら今からでも」
返却の意思を伝えると、一瞬嬉しそうな顔をしたがすぐにしゅんとなった。
『分かりません……ここがどこかも良く分からないし』
「最寄りは○○駅だけど」
『あれ、もしかして××駅と同じ路線ですか?』
記憶とスマホの情報を突き合わせて、どうやら彼の家が近隣であることは分かったものの、決定的な場所が分からない。肝心の名前も今は思い出せないと言う。
「テディベアに、何か持ち主を示すようなものが残ってないかな」
『どうでしょう?』
生前の記憶はすべて曖昧らしく、彼は申し訳なさそうに首を傾げた。自力であちこち調べた結果、首のリボンの裏にも特に何も書かれていなかったけれど、そこに鈴が下がっていることに今更ながら気がついた。音が鳴らなかったことと、首の後ろに回してあったので毛に埋もれて見過ごしていたようだ。
「何で鳴らないんだろ?」
リボンから外して手の平で転がしてみたが、やはり音がしない。飾りなのかと思いながら中を覗くと、紙片のようなものが垣間見えた。
「何かある……」
ピンセットなんて気の利いたものはないので、割りばしについていた爪楊枝で中を探ると畳まれたノートの切れ端のようなものが出て来た。
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