【1】出会い

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【1】出会い

 初めて立ち寄ったリサイクルショップで、紺野永(こんのえい)がふと視線を感じて振り返るとそこには大きなテディベアがどっしりと座っていた。 (何だ、ぬいぐるみか)  大きな黒目が印象的ではあるが、視線とはさすがに大げさだなと自嘲する。照れ隠しについ頭をなでていると、店主が目ざとく声をかけて来た。 「兄ちゃん、お目が高い! それ今ならお得セール中だよ」 「いや、ちょっと見てただけで……」 「呼び止められたんだろ? そういうのは、ご縁があるって言うんだよ」 「でも俺男だし、大学生にもなってぬいぐるみってのも……」 「何言ってんの、今は性別だの年だの小さいことにこだわる時代じゃないって。んなこと言ってると、世の中に置いてかれちゃうよ?」  自分より遥かに年上の祖父世代の店主から時代遅れのような指摘をされたことに軽くショックを受けていると、さらに畳みかけるように言われた。 「売値は二千円だけど、特別に九百八十円で良いよ」 「九百……って、安!」  あまりの安さに驚いたのと、店主が勢いよく手を出して対価を催促するもので、思わず財布から千円を取り出していた。そのままひったくるように札を奪われ、代わりに二十円のお釣りを返された。 「袋ないからそのままで良いよね? 抱っこして帰りな、はい毎度あり!」  押し付けられるような形で腕に抱えさせられ、そのままショップを後にした。本来の目的であった古着は結局見ることのないまま、両腕に毛玉を抱っこして独り暮らしのアパートへとぼとぼと帰って行った。 (近所で良かった)  さすがに電車やバスに乗るのはきつかったとしみじみ呟く。膝でくまのおしりを支えながら、片手で鍵を取り出して玄関のドアを開けると、廊下を抜けて部屋まで進みラグの上に抱えていたテディベアを座らせた。 「でかいな……」  狭い家に置くと、より大きく感じられる。けれどその存在感が、不思議と悪くなかった。改めてよくよく見ると状態も悪くないし、デザインも縫製もきちんとしていて質は非常に良いもののように思える。隣県への大学進学と同時に独り暮らしをして少々寂しい環境にはちょうど良かったのかも知れない、と永は店主の強引さに今更ながら感謝した。 「よろしくな、くまくん」  頭をポンポンすると、永は隣に寝転んで漫画を読みながら夕飯をどうしようかと考えた。
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