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中学3年生の春。
純くんから、引っ越すという話を聞いた。
「もう、会えなくなるの……?」
「……淋しい?」
「うん……」
素直に心情を吐露すれば、純くんが優しく僕の髪を撫でる。
「じゃあ、こっちに近い学校を受けてよ。……来年から、一緒に住もう」
「うん」
嬉しかった。
こんな理由で遠い学校を決めるなんて、不純だと思いながら。
夏休みに入り、通っていた塾の夏期講習に申し込んだ。
でも、すぐに後悔した。
隣の席には、同じクラスの由利恭平。
由利は、僕から見ればリア充の塊で。僕を卑下する集団の一人。
ここでも僕は、肩身の狭い思いをしながらこのひと夏を過ごすのかと、ショックを隠せなかった。
そんな中ふで箱を開けてみると、……消しゴムが無い。
「……これ、やるよ」
隣からスッと差し出されたのは、千切られた消しゴム。
驚いて由利を見れば、特に気になどしていない様子で、プリントに消しゴムをかけていた。
僕に渡してきたものよりずっと小さく、何だか使い難そうで。
「でも……」
「いいから使えって!」
戸惑いながら躊躇する僕に、由利は、屈託のない笑顔を見せてくれた。
「……」
……たった、それだけ。
それだけで……ずっと心に引っ掛かっていた劣等感や息苦しさから、少しだけ解放されたような気がした。
それから、少しずつ話すようになって。
純くんしかいなかった僕の小さな世界に、いつの間にか由利が入り込んでいた。
塾が終わった後、エアコンの効いたファミレスで一緒に勉強するようになってから……少しずつ、由利の存在が大きくなっていて。
毎日が楽しくて。
だから、つい忘れてしまっていた。
──僕が、普通とは違う人種だって事に。
『輪廻転生』
この四字熟語を目にした瞬間──
僕は、自分の置かれた立場を思い知らされた。
無性に怖くて。
怖くて怖くて怖くて……仕方がなかった。
きっと僕は、ろくな死に方をしないだろう。
もし生まれ変わっても、また同じような劣等感を抱えて、生きていく事になるんだろうな……って。
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