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「……恭平はきっと、生まれ変わっても優しい人間になるんだろうね」
「……は?」
驚いた恭平が、僕のノートを覗き込む。
「……輪廻転生、……のことか?」
「うん……」
そう答えると、視線を上げた恭平が意地悪く眇め、片側の口角を持ち上げてみせる。
「なに、お前。来世とか信じてんの?……ダッサ!」
言葉こそ意地悪なものの、そう揶揄いながらも僕を見つめる恭平の目は……僕を馬鹿になんかしていなくて。
「……由利は、信じてないの?」
「まぁな」
そう、答えてくれる。屈託のない笑顔を浮かべながら。
「あんなの、要は『悪い事をしちゃいけません』っていう、道徳的なモンだろ?
この世で真っ当に生きていく為に、人間が勝手に作った、単なる教訓。
前世も来世も、あの世もこの世も、生まれ変わりも神様なんてモンも……俺は全然信じちゃいねーよ!」
「……」
衝撃だった。
……だって僕は、それが当たり前だと思っていたから。
「なぁ、知ってるか? 地球の質量って、変わんねぇんだって。
……死んだら、土に還るだけ。
この肉体が地球の一部になって、長い年月を経て……また別の何かに変化する。
ただ、それだけだよ」
「……」
「……だったら、楽しもうぜ」
……楽しむ……?
ぽかんとする僕に、得意気な笑顔を浮かべていた恭平が真面目な顔に変わる。
「俺はさ。……俺という人間が、この地球上で『人』として、『男』として、『由利恭平』としてどう生きていくか。
何を残せるか。
……後悔しないように今を楽しみながら、毎日を大切に生きてる」
ドヤ顔した後、少しだけ照れたように笑って目を伏せる。
初めて見る、恭平の意外な一面。
あの時の言葉は……僕の中にある劣等感で固められた世界を、簡単に打ち壊してくれた。
『人』として。『男』として。
『結城瑠風』として。
ゲイという、避けられない現実を抱えながら──
僕は、どう生きていこう。
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