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†††
……白くて細い、項だな。
そんな事を思いながら、頬杖をつく。
それは、中学三年の初夏。
窓際一番後ろの特等席に座る俺の視界には、決まって前席にいる結城瑠風の後ろ姿が映り込んでいた。
少し長めの襟足から覗く項は、まるで女みたいに細くて長い。
……いや、細いのはそこだけじゃなくて。抱き締めたら骨まで折れてしまいそうな程、華奢に見える。
「……」
こう席が近いと、自然と喋るようになって仲良くなったりするもんなのに……結城とは、それが無い。
クラス全員を敵に回すつもりなのか。無口で無愛想で。住む世界が違うと言わんばかりに、周りとは一線を引いた態度を取っていた。……つまりは、お高く止まった『スカした野郎』。
それ故、結城と関わろうとする奴はいなかった。
しかし、よく見れば容姿端麗で。そのミステリアスな雰囲気から、一部の女子の間では人気があったらしい。
しかし別段興味の無かった俺は、取っつきにくい奴だな…位にしか感じていなかった。
変化があったのは、夏休みに入ってから。
少人数制の塾の夏期講習を受けに行った先に、結城がいた。
それも同室。しかも隣。
確か……千切った消しゴムをあげたんだっけ。
それがキッカケで、何となく話すようになって……気が付けば、一緒に受験勉強をする仲にまでなっていた。
丁度その頃だ。
結城の本命校が、俺と同じだと知ったのは。
「……え、動機? 不純だよ。由利と違って」
そう言って、少し照れたように笑う。
クールな印象だった結城の、人間らしい反応。それに、正直驚いたというか。安心したというか……
ああ、なんだ。結城もこんな風に笑うんだな、って。
「何だよそれ。教えろよ」
「……え……っとね。好きな人の傍に、いられるから……かな」
「ふぅーん。不純な動機、ねぇ……」
「……な、内緒だよ?!」
長い睫毛を伏せ、瑠風が頬を赤く染める。
「僕の好きな人。……5つ年上の、従兄弟なの。
もし合格したら、その人のアパートに居候させて貰える事になっててね……」
ぽつりぽつり……と、照れながら話し出す。
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