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そして──入学式から1週間が経った、今日の休み時間。
中学の時と同様、窓際一番後ろの特等席に座る俺の方へ、前席の瑠風が振り返る。
「そういえば恭平。少しは部屋片付いた?」
揶揄うように、瑠風が微笑む。
中学の時とは違い、結城は学校でも俺に話し掛けてくるようになり、あの無愛想な印象から一変して柔らかな印象へと変わっていた。
「……ま、まぁな……」
「はは、嘘だぁ。……僕、手伝いに行ってあげよっか?」
見透かした様に笑った瑠風が、俺の顔色を伺うように下から覗き込む。
その仕草は、まるで甘える猫のよう。
……相変わらず、目ぇデカくて睫毛長ぇな。
「マジで?!……あー。けど、今はムリ。あんなとっ散らかった部屋、瑠風には見せらんねぇわ。……もう少し片付いたらにして」
「……えぇ、なにそれぇ!」
結城の唇が、綺麗な弧を描く。
ぷっくりとしていて、柔らかそうで。相変わらず、女みてぇ……
「それじゃあ……いつ行けるか、楽しみにしてるね」
含んだように、クスクスと笑う。
「なぁ、由利」
休み時間。教室の後ろから廊下に出ようとすると、ドア周辺に屯していた連中の一人に首根っこを掴まれた。
見れば、入学早々親しくなった、瑠風の前席である山岡。
「結城って……可愛いよな」
「……は?!」
予期せぬ言葉に、思わず大きな声が出てしまう。
「……あー、確かに」
「女だったら絶対告ってたな」
「俺、女装した結城ならイケるかも!」
屯していた山岡以外の三人が、次々と勝手な事をぬかす。
「……てかお前ら、こんだけ女子いて、何寝ぼけた事言ってんだよ!」
……瑠風が、可愛い?
自席で静かに読書をする、瑠風の後ろ姿が視界に映った瞬間──ドクンッ、と心臓が大きく跳ねる。
少し長めの襟足から覗く、白くて細い項──
「……」
……確かに。
敢えて意識した事は無かったけど……
……瑠風は、可愛い。
いつも澄ました顔して教室にいる癖に。俺が近寄れば、その表情を簡単に崩して、スッと俺の懐に入ってくる。
真っ直ぐ俺に向ける、大きな瞳。
はにかみながら笑みを漏らす、柔らかな表情。甘える仕草。
熟れたような、赤い唇。
白くて細い、項──
「由利。お前、結城にいつもあんな顔見せられて、何も感じねーの?」
揶揄うように横目で見られ、首に回された太い腕に力が籠められる。
「俺なら、我慢できねぇわ」
「……ば、バッカじゃねーの?!」
しつこく絡みつく山岡を引っ剥がし、じとっと睨みつける。
いくら可愛いからって………瑠風は、男だぞ。
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