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「……そっか」
スプーンを持つ手に力が籠もり、小刻みに震える。
だけど。それを悟られない様、当たり障りのない表情の仮面を被る。
……あー、凄ぇ腹立つ。
何なんだよ。美人なら何やっても許されんのかよ。
瑠風を手玉に取るような美人って、一体どんな女なんだよ。
「なぁ……」
何言おうとしてんだ、俺は。
これ以上踏み込んで、どうすんだよ。
そう自制しようとするものの、ざわざわした気持ちを収められそうにない。
「彼女の写真、見せろよ」
「……えっ。……そんなの、無い……」
「あるだろ、どっかに。親戚なんだからさ、フツー」
「………う、うん……」
揶揄うような口調で半ば強引に押し切れば、戸惑いながら弱々しく見上げた瑠風が、こくんと小さく頷いた。
食事を中断し、後ろをついていく。
瑠風の部屋。かと思えば、ドアを開けた向こうに見えたのは──純白なシーツがピンと張った、ダブルベッド。
瞬間、二人の寝室だと悟る。
「……これ、だよ」
瑠風がベッドに膝をついて上り、四つん這いの格好のまま窓側へと移動する。壁際のヘッドボード。その端にある写真立てに手を伸ばす。
「……」
しかしその場にペタンと腰を下ろすと、俺に見せる訳でもなくそれをじっと見つめる。
……隣に来いって事か?
惑いながらもベッドに上がり、瑠風の隣に腰を下ろす。手元を覗き込もうと顔を寄せれば、思いの外その距離は近くて。
「──!」
瑠風の匂い。長い睫毛。柔らかそうな唇。
華奢な身体。艶めく肌。
──白くて細い、項……
『俺なら、我慢できねぇわ』
ドクン……ドクン……
……無意識、だった──
その瞬間は、全く覚えてない。
山岡の台詞が脳裏を過り、指先がじんっと痺れたその刹那……
瑠風を、ベッドに押し倒していた。
ベッド端で小さく弾む、写真立て。
その表面のプラスチックが光っていて、顔が見えない。
「……」
……俺、山岡に呪いでも掛けられた……?
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