扉の向こう

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 レンタルームを借りるにあたり、通常の賃貸契約とは異なる条件がいくつかあった。部屋がどこに存在するのか、探ろうとしないこと。他人をレンタルームに招き入れないこと。部屋からものを持ち出さないこと。それさえ守れば、レンタルームを利用し続けることができるという。  俺は鍵を借りると、元居た部屋から少ない荷物を引き払い、早速レンタルームの利用を始めた。  最初の部屋は、どこにでもあるようなワンルームの部屋だった。通常の引っ越しと違い、あらかじめ家具やら何やらが揃っている為、ホテルにでも来たような気分だった。  部屋は綺麗に片付けられている。それもそのはずで、レンタルームとして使用される際には、寝具等はきちんと部屋主のものではないものが用意されるらしいのだ。つまり、本当にホテルのように、気兼ねなくくつろいで問題ないということだ。  内装を見て回る。多少古いが、風呂トイレが別になっているのはポイントが高い。キッチンは狭いが、料理するのには不便がなさそうだった。まぁ、ほとんど料理することがない俺にはあまり関係がないことだったが。  なるほどなと思いながら、俺は適当に部屋にあった漫画を取り出して読み始めた。こうして他人の趣味にタダ乗りできるのも悪くない。漫画喫茶の代わりとしても使える。読み始めた漫画は大層面白かったが、しかし明日になったら続きが読めないことに気付き、キリのいいところで終えることにした。  次の日、玄関を開けると、店主の言う通り、違う部屋に繋がった。同じ扉なのにどういう仕組なのだろうか。不思議に思うが、どうせ考えても分かるはずもない。下手に探ろうものならレンタルームの使用が禁じられる可能性がある。俺は考えるのを止め、部屋の中へと進んだ。  その部屋は、恐らく女性の部屋のようだった。部屋はパステルカラー系統のカーペットやカーテンで装飾されており、ベッドにはぬいぐるみがいくつか置いてある。女性でもレンタルームの契約をするんだな。物騒だとは思わないのだろうか。自分のことを棚に上げそんなことを考える。  早速くつろごうとしたが、その部屋は明らかに自分の趣味に合わないせいかどうにも落ち着かなかった。結局俺はベッドを使用せず、床に寝転がって夜を過ごした。今回は外れを引いてしまった、だがそれもまた楽しみの一つのように思えた。
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