扉の向こう

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 そうして俺はレンタルームを満喫し始めた。ある時は3LDKの豪華なマンション。ある時は築四十年は経過していようかというような四畳半。分厚いカーテンで覆われた、よく分からない植物を育てている実験室みたいな部屋があったかと思えば、部屋の真ん中にガラスのシャワールームが設置されているだけのヘンテコな部屋に繋がったりもした。  繋がる部屋はどれも個性的で、誰かが暮らしている匂いがした。毎日、俺は見知らぬ他人の部屋を間借りし、その趣味にタダ乗りし、大の字になってベッドで熟眠した。最初こそ落ち着かない生活を強いられたが、慣れてくればちょっとした旅行をしているような気分になり、非常に新鮮な気持ちになれた。 『レンタルームはいかがでしょうか?』  利用し始めて一月が経過した頃、不動産屋から連絡があった。 「いやぁ、最高ですよ。毎日知らない誰かの部屋で生活ができて、飽きることがありません」 『それはよかった。是非そのままご利用いただきたいと思います』 「こちらこそ、喜んで利用させていただきますね」  破格の値段でこんな理想的な生活が送れる。俺はただただ毎日が楽しかった。
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