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――彼は、煙草は吸わなかった。
何杯目かわからないウイスキーの水割りを飲み込む。
高いのにそんなもったいない飲み方して、と言われたのは最初だけだった。
若い女性がぐいぐい飲むものじゃないとはわかっている。
甘い、長ったらしい名前の濁ったカクテルをちびちび飲むのが可愛いのは知ってる。
でももういい。
無駄だった。
私がどんなに頑張ったって、可愛くなれない。
自嘲を紛らわすためにグラスの中身を喉に流し込んだ。火をつけたら燃えるのではないかと思うような、アルコールの刺激が体内を伝っていく。
「そろそろ、上、行くか?」
シティホテル5階のバー。上、が指すのはもちろん、高見が押さえたダブルベッドの部屋だ。
雪緒はゆらりと振り子のように頭を巡らせ、
「……そうですね。ちょっと、トイレ……」
「部屋で入ればいいじゃん」
「やです」
雪緒はにべもなく言ってスツールから降りた。
愛があるわけではないからドライな接し方になる。
汚してくれればそれでいい。
貞操観念が地に落ちた、ふしだらな女にしてくれれば。
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