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足元が若干ふらつく。ずっとザルと呼ばれ、酒豪扱いされてきた雪緒でも、さすがにペースを考えない飲み方はこたえた。――頭が、脈に合わせてズキズキする。
なんだっけな。アセト……アセトアミノフェン?
アルコールが分解されて、頭が痛くなる物質……アセト……も、いいや。
ヒールが突き刺さるくらいの厚みのあるカーペットを踏みしめて歩く。
7センチのヒールだ。
電車でよろけて他人の足を踏んだら、骨を砕きそうな。
雪緒は女性の中では背が高いほうだから、今の身長は多分170センチを超えている。
このハイヒールも封印していた。
だって、女性の背は、小さいほうが可愛い。
でも、もう解禁だ。
ハイヒールを封印したって、ダメなものはダメだった。
バーの出入口をくぐったとき、誰かに名前を呼ばれた気がして足を止める。
しかも……。
今の、声。
「……やっぱり。似てるなと思った。――久しぶりだね」
バーの出入口近くの個室から、追いかけてきた男性がそう言った。
ヒールを履いた雪緒でも目線が上になる長身。
端正な顔立ちが、柔らかく微笑んでいる。
「……嘘……どうして……?」
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