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受け入れてもらえなければ他の方法を考えるしかないと思っていたが、こうして『郁が穂乃里に愛想をつかされる』ことが一番ダメージを受ける範囲が狭いと思った。少なくとも、義理の姉への被害がないはずだと。
最終的には、華音は呉服屋の友達が持つ服の中から、最も煽情的なドレスを借りて、ヘアセットも行きつけのサロンで仕上げてきて、この芝居に相当乗り気で臨んできていた。
――ここまでの準備をした上で……穂乃里がついてはいけない嘘をついたことを認めてくれたら。
少しでも、後悔する様子を見せてくれたら。
華音には隣の部屋で待機してもらったまま、話し合う余地があると思っていた。行きつく先が同じだったとしても、こんな最悪の終わり方にはならなかったはずだった。
――結果は、残念ながら……こうなったが。
反面、中途半端な終わり方になっていたら、どこかに火種が残った気もする。だが、それはもうどうだったのかわからない。
華音が穂乃里が出て行ったドアを一瞥して、
「でも、いいの? ほんとに破談になると思うよ」
「破談にしたくてやったんだから、狙い通りでしょ」
「ていうか、おうちのこと。――これが親に伝わったらまた面倒になるんじゃない?」
「……いいよ。もう、そっちはどうでも」
親のことも、会社のことも、仕事のことも、どうだっていい。
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