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そもそも、こんな身売りみたいな縁談が破談になってぐらつくような会社なら、この先長くない。経営者は身を引くべきだ。
べたべたになった前髪を手で払う郁をじっと見つめ、華音は口を開いた。
「……一つ教えてよ」
「何?」
ソファに腰かけた姿が、ファッション雑誌の1ページのように美しい華音が、ドレスに合わせて深紅に塗られた唇を軽く突き出した。
「私、どうしたら郁の本命になれたの? ――親のことなんかどうでもいいって思えるくらいの」
冗談めかして言っているが、その大きな目はどこか悲し気だった。
冗談で返すこともできたが、こうしてこんな芝居に全力で協力してくれた友人に対しては本気で答えなければいけない気がした。
答えを探して、目を逸らさない華音を見返す。
華音は、掛け値なしに美しい女性だ。
それに知的で、可愛げもあって、持っていないものを探す方が難しい。
それでも、華音は雪緒ではない。
どうしたって、誰も雪緒の代わりにはならない。
雪緒と出会う前に華音とセフレ以上の関係にならなかったのは……。
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