きみに伝えること

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 長いキスの途中、廊下から別の部屋のドアが開閉する重い音がして、急に我に返る。  雪緒は溶け合っていた唇を離し、何か照れくさくて額を郁の肩に押し当てた。 「……とりあえず……部屋、入る?」 「……うん」  会えなかった時間が途方もなく長く感じられて、一体どんな顔をして接していたのか思い出せない。そしてその間にあったいろいろなこと……訊きたいことが多すぎて、何から話せばいいのかがわからない。  リビングに入って、半端な状態で床に倒れているバッグを見ると、 「出掛けるところ? 何か用事あるんだった?」  郁が遠慮がちに尋ねてくる。 「スーパー行こうかなって思ってたとこ」 「あ、じゃあ行こうよ。俺荷物持ってあげる」  楽し気にそんなことを言う郁を、思わず無言で見上げてしまう。  ――義弟と、スーパーに買い物にいく日がくるなんて、30分前までは想像もしていなかった。 「……スーパー、ちょっと歩くけど……」 「いいよ。なんか、このまま部屋に籠ってたら、辛抱できなくなりそうだし」
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