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何を……? と尋ねそうになって、パンツのポケットに手を突っ込んだ郁の、何かを飲み込んだような顔に気づく。
キスの、それ以上。
雪緒は慌ててバッグの中身を確認し、
「じゃあ……遠慮なく重いもの買うね。お米とか」
と言うと玄関に向かった。
エレベーターの中、祐輔に会ったらなんて説明しようかと考えていたが、遭遇することはなくマンションを出た。
良く晴れた空に、からりとした風が吹く、散歩には最適な陽気だった。
「……祐輔くんに、喧嘩したって言ってついてきてもらったの?」
「あー、そう言っちゃったらそうなんだけど、祐輔がちょうど庭に出てて。歩いてたら見つかって、捕まりかけたから3階に用があって来たんだよって説明したの。そしたら、一緒にお願いしてあげるって言うから。断れないでしょ」
そう言いながら、郁の左手が雪緒の右手をとった。
一瞬、『してはいけないこと』の判断をしそうになって、苦笑いする。
いいんだ。別に、真じゃない人と手を繋いで外を歩いたって。
雪緒は右を歩く郁の顔を見上げ、
「……結婚の話、ほんとになくなったんだよね?」
「うん、本当」
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