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「全然だいじょーぶ」
「普段買えないもの買えて助かるよ」
「これからは呼んでくれればいつでも運ぶよ」
郁がなんでもないように答えたその言葉が、雪緒の胸に温かく染み込む。
こんなこと、望めないと思ってたのに。
他の人と婚約して、もう会うことすら出来ないって絶望して。
泣きたくなるような幸福感に浸りそうになって……ふと、穂乃里のことを思い出す。
多分……私が妊娠したと郁くんに嘘をついたのは、穂乃里なんだろう。
縁談を宣言して、それでも安心できなかった?
そんな嘘でもつかないと、私がこっそり郁くんに会って穂乃里を裏切ると思った?
それだけの信頼しか得られてなかったことが悲しいし、虚しくなる。
けれど、自分も夫が失踪したことは穂乃里に話していなかったし、穂乃里も自分の立場を雪緒に明かしていなかった。
柵のない関係が心地よかったけれど、それはつまり相手に踏み込まず、深くを知らないからこその心地よさだったんだろう。
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