きみに伝えること

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 それでも、あのカフェで過ごした時間や、穂乃里ととりとめのない話をした時間は……癒しだった。日々の生活や、仕事の憂さをかき消してくれる、大事な時間だった。  ――またいつか、スタート地点から友達を始められるときが来ることを願ってしまう。  遠い将来の話になるだろうけど。  のんびり歩いてマンションに戻り、買い込んだ食料品を冷蔵庫に収めていく。  牛乳のパックを雪緒に手渡しながら、 「……あのさ」 「うん?」 「俺、雪緒さんに……話しておかなきゃいけないことあって」  その声に、雪緒は冷蔵庫のドアを一旦閉め、郁を振り返った。  どこか、思いつめたような目。  スーパーからの帰り道、急に口数が少なくなったような気がして、何かあるんだろうと思ってはいたところだった。 「何? 実は男のほうが好きとかだったら、聞きたくないよ」 「……それは、ない。けど」  空気を和らげようとそんなことを言ってみたが、郁の表情は硬いままだった。  再び冷蔵庫を開いて、残っていた豆腐と挽肉を冷蔵庫に入れ、苦笑いして郁の背中を押す。 「お茶淹れるから、座って」
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