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黙ってそれに従い、郁は定位置……チキンタルタル弁当を食べた場所に腰かけた。
それを見届けてから、雪緒はお茶やカップがまとめてある棚を覗き込んだ。
――無難に、緑茶を選んで……マグカップと紙コップを取り出す。今となっては、その紙コップがよそよそしく見える。
今度こそ、カップを買い足そうと、頭の中の買い物リストに追加した。
沸いたお湯を注いで、リビングに運ぶ。
郁の前に紙コップを置いたが、郁は手を出さずに自分の組んだ手を見つめていた。
雪緒はしばらくカップを見つめてから、一つ息を吐いた。
郁がそこまで、話したくないこと。でも話さなければならないと思っていること。
「……あらかじめ言っておくけど、私、別に郁くんの全てを知りたいとは思わない。例えば、初恋の相手がどこの誰とか、ファーストキスはどこでしたとか」
特に……穂乃里とどこまでしたとか、してないとか。
気にならないとは言わないけど、それを知ってもすっきりはしない。知らないほうがいいことも沢山ある。
雪緒の気持ちは伝わらなかったのか、郁は憂鬱な顔で口を開いた。
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