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「40近い歳の差については、どのようにお考えですか」
「ちょっと! お父さん!」
「お前は黙ってなさい」
陽介の顔つきがスッと険しくなる。怒らせたかと不安になるが、深月の幸せのためここで引くわけにはいかない。
陽介が静かに口を開く。
「お父様のお気持ちはわかります。こんな老い先短い男と一緒になって、私が死んだ後どうするのか。一人で生きてゆくのか、別の相手を探すのか。どちらにしても、私と一緒になれば深月さんの将来を奪ってしまう。
……私もずっとそう思っていました。だから自分の中の彼女への想いを押し殺し、一度は交際の申し出を断りました」
ハッとした。まるで大海と陸の関係と同じではないか。
陽介が続ける。
「その時、深月さんがとある言葉をくれました」
「とある言葉?」
「だってしょうがねぇ もう止まんねぇ 芽生えた感情に嘘吐くな
だから激しく(ピー) 淫らに(ピーー) フィニッシュ決めるぜ(ピーーー)」
「……何かの呪文ですか?」
「私たちが最も敬愛するバンドの曲の一節です」
「なるほど」
紳士の口から出たとは思えない言葉の数々に一瞬意識が遠のくが、メタルの歌詞だとわかり納得する。
しかしわからない。それがなぜ深月との交際に繋がるのか。
「深月さんはこうも言いました。『不確かな未来に縛られるより、今の私の気持ちに応えてほしい』と。私はようやく気が付きました。私がしたことは彼女のためのようで、結局今の彼女を蔑ろにしていただけなのだと」
「あ」
「俺のためって言うなら普通に俺と組んでくださいよ!」陸の言葉を思い出す。
そう、単純なことだった。陸とデュオをやりたい気持ちが芽生えた時点で、答えは一つだったのだ。
「私がすべきことは芽生えた感情に蓋をすることではなかった。本当にすべきは、愛する深月さんに(ピー)したり(ピーー)したり、(ピーーー)することだったんです」
「親の前で言うことではないと思いますが、おっしゃる意味はよくわかりました。……草壁さん。娘をよろしくお願いします」
娘の幸福を願い深く頭を下げる。顔を上げると、安堵の息を吐く陽介と、その横で、心底幸せそうに笑う深月がいた。
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