『あなたと』

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「ねぇお父さん。ドアの前に変な人がいるんだけど」  歌い始めて二時間。深月が訝しげな表情で言った。見ると、ドアのガラス部分から金髪サラサラヘアーの男の顔が覗いている。  さらに中の様子を窺うように、大きな目がギョロギョロ動いている。 「たぶん部屋を間違えてるんじゃないか」 「でも、さっきからずっと……」  不安そうに深月が呟くと同時にドアが開いた。素早く身体を部屋に滑り込ませた男は、ダボダボの服にジャラジャラした鎖? とどう見てもガラが悪い。  大海は男が「間違えました」と部屋を出て行くのを待った。が、男は出て行くどころかドアを閉めて大海たちの方に向き直った。  大海は深月を庇うように彼女の前に立つ。 「何か用ですか」  声が震えた。男の視線が品定めするように大海に絡みつく。そして、その視線はそのまま大海の背から顔を出す深月へ。  男がニヤリと笑った。 「一目惚れ、いや、しました! 俺のパートナーになってください!」  突然叫び、ズカズカと二人に向けて歩き出す。  大海は冷汗を流しながらも両足に力を込める。深月だけは何があっても守らなくては。深月が大海のシャツの袖をギュッと握った。  男は二人の前に立ち、まるでプロポーズのような所作で左膝をつき、右手を前に差し出した。  その手が向けられた先は深月ではなく。 「ほぁ?」  大海は差し出された手をぽかんと見つめ、素っ頓狂な声を上げた。
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