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年賀状
吉野は律儀に毎年、年賀状をよこした。
『赤ちゃんが生まれました!』
結婚式から二年後、幸せそうな夫婦と赤ん坊の写真の傍に、吉野の手書き文字が踊っていた。
俺は用意していた年賀状に「ずっと幸せにな」と書いた。毎年来るのは分かっているのに、こちらから出したことはない。これは俺の意地だ。
抜いても抜いても雑草のようにしぶとく芽生える恋心。いつまで付き合い続けなければならないのか。年賀状を見る度に切なくなるが、その痛みを求めて吉野を好きなままでいるのかもしれない。
――なあ、吉野。俺は一生、お前の親友でいてやるよ。だから吉野も、俺のことを親友だと思い続けてほしい。これが恋の種を植え付けられた俺の、ささやかな願いだ。
年賀状を掴み、コートを羽織った。後で電話でお祝いしてやらないとな。胸の痛みを感じ、頬が緩んだ。
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