報告

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「私、結婚する」  吉野(よしの)陽美(はるみ)が、ファミレスに似つかわしくないくらい緊張した面持ちで言う。 「おめでとう」  俺は表情を変えず、ホットコーヒーを啜った。 「あれ、全然驚かないね」  吉野は唇を尖らせて、寂しそうだ。 「当たり前だ。何年お前のやってると思ってんだ」  二十八歳。学生時代から付き合っている彼氏の存在。大事な話がある、という呼び出し。  ここまで条件が揃っているのに見当がつかないやつがいたら、よっぽど鈍感か、相手に興味がないかだろう。 「『大事な話があるから、直接会いたい』で察しがつくだろ」 「そりゃそうか」  吉野が上の前歯だけを見せて、きれいに笑った。高校時代はショートカットだった彼女だが、彼と付き合い始めてから髪を伸ばすようになった。今や、胸の下までの長さになった髪の毛は、店内の照明を受けて(つや)やかに輝いていた。一段と美しくなった親友を見て、枯らしたはずの恋の花が芽吹き始めるのを感じた。  これで何度目だよ。心の中でため息をついてから、笑顔を作った。 「本当におめでとう」 「ありがとう。親友のかっつんにお願いがあります」 「なんだ?」 「私達の式でスピーチをしてほしいの」  ――あれって同性の友達がするもんじゃないのか? 「新婦の友人代表として、スピーチしてくれない?」  固まった俺を見て、聞こえなかったと判断したのか、吉野が言い直した。 「俺、男だけど大丈夫か? 変な憶測生んだりしない?」  口ごもると、吉野が首を傾げた。 「変な憶測って?」 「吉野の元カレ、とか」  吉野が手を叩いて笑う。声が響いて、隣の客がこちらを見た。 「ないない! かっつんは全然そういう匂いしないしさ。大丈夫。実際何もなかったわけだし、もし疑われたとしても、堂々としてればいいじゃん。何も心配することはないよ」 「それもそうか」  ぺたり。俺は笑顔を貼り付けた。社会人になってから身につけたスキルだ。感情を殺すための仮面。
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