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第一話 「気になる彼の水曜日」
「じゃあ聞くけどさ有紗、それが恋じゃないなら、いったいなんだっていうんだよ」
わたしの背後の席に鎮座するクラスメート、葉山陽一くんは腕を組み、そう断言する。
「そんなんじゃないよ、だってこの城西高校に入学して半年近く経つのに、ほとんど口も聞いたことないんだよ。水曜日だけは朝から屋上で読書していて、しかも誰とも喋らないってことしか知らないし」
「ぶはっ! 恋に落ちるのに言葉なんかいらねえんだよ。俺に相談を持ちかける時点でフラグ立ちまくりじゃん」
「ちょっとやめてよ、どうして葉山くんはベクトルがそっち向くのかなぁ」
あわてて両手を振って否定しあたりを見回す。さいわい、教室の喧騒が葉山くんの邪推をかき消してくれたので、誰にも聞かれることはなかったみたいだ。
年頃のクラスメートは『恋』ってキーワードに過敏なんだから、うかつに恋バナ的発言をされるのは誤解のもとになる。
「京本くんは水曜日だけ人が変わる、『ちょっと気になるクラスメート』なだけだよ」
「気になる、ねぇ……」
葉山くんは両腕を頭の後ろに回し、上履きを脱いで両足を机の上に放りだしふんぞり返る。
「じゃあ俺の立ち位置は?」
にかっと白い歯を見せて尋ねてきた。恥ずかしげもなく訊くことのできる彼はある意味、尊敬に値する。その鋼のメンタル、わたしにもおすそわけしてほしい。
ちなみに今のひとことも、別段、恋人に立候補しているわけではなく、わたしのことをからかっているだけ。そうでなければ、堂々と足の裏を目の前に並べるはずがない。
「見た目二枚目、話すと三枚目? ひとことでいえばイケメン風味、かな」
「ひでっ!」
「あとねわたし、葉山くんの足の裏を眺めるために生まれてきたわけじゃないんだけど。それから、この靴下はもう駄目みたいね」
机の上に並んだ足の裏をシャーペンの先で突っつくと、当の本人は逃げるように引っこめ足裏を確認した。かかとのあたりは生地が擦り減り、地肌がすけて見えていた。
「そか、ついに殉死かよ俺のアディダス。さんざん苦労かけたからなぁ」
「サッカー部ならしょうがないよね、上達の犠牲だと思おうよ。目標のセンターフォワードどころか、スタメンもまだ遠いんでしょ」
「まあな、先輩方はやっぱうめぇよ。ポジション争いガチ厳しいぜ」
葉山くんはショートレイヤーの髪を無造作に掻いてみせる。多少手厳しいことを言っても後腐れがないから、『気さくな話し相手』としては最高だ。こういうのを男友達っていうのかな。
「でもさ、葉山くんは一学期、京本くんのとなりの席だったし、よく話しかけていたじゃない? だから京本くんの喋らない事情を知ってるんじゃないかと思って」
葉山くんなら、何食わぬ顔で事情を聞きだしていてもおかしくはない。
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