ドキドキ星

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ドキドキ星

 私が次に訪れた星も変わった星であった。だが、それは今回の場合、結果的にそうであっただけで、空港に降り立った第一印象は、至って普通の星であった。  子綺麗な空港は、大きくも小さくもない街に面していて、お世辞にも普通の星と言った印象。遠くに目をやると山が見えたが、特別に標高が高いわけでも無く、せいぜい標高二千メートルと言ったところだろうか。この程度の山なら、私の母星(ぼせい)の山脈の方が、よほど立派で雄大で美しい。  その普通の山の反対に目をやると川が流れていた。これまた至って普通の川で、清らかな流れの清流ではあったが、ただそれだけだ。そんな川なら私の故郷の銀河なら、どの惑星(ほし)にだって、ごまんと存在すし、何ら特別な物では無い。その普通の川は海へと続いていたが、その海も、これと言った特徴の無い普通の海であった。  私は最寄りの街に繰り出そうと空港を出た。街はそこそこ発展していて、そこそこ大勢の人が居た。だが、これくらいの規模であれば、どこの銀河のどの惑星に行っても、大体普通で、特に秀でたものではない。私の故郷の惑星でも、これくらいのものなのだから…。  …。なのにだ…!何故だ…⁈先程からドキドキが止まらないのだ!確かに、初めて訪れた星は興奮するし、気持ちが早って、いても立ってもいられない事は良くある。だが、それは美しい景色や、見たことのない特徴的な環境を目の前にして、心が躍り、興奮とワクワクがまるで泉のように湧き上がって来るからなのに…!  でも、今回は違うのだ!何の変哲も無い、普通の惑星!着陸前から見えた景色は至って普通で、特に期待もしていなかったし、実際に降り立ってみても、期待を裏切る様なサプライズなんて、何一つ無かったのに…!なのにっ!宇宙船(ふね)を一歩出た瞬間から、何故かドキドキが止まらないぃ!そして、時が経つにつれて、ドキドキがドキドキを呼んで、更なるドキドキへと(いざな)う様に、胸の鼓動は更に高鳴り、身体中が熱って仕方がないぃ…!アァァ…!私はどうしてしまったのぉ⁈こ、こんな事は初めてぇぇ!アァァ…!身体(からだ)が熱いィィィ…!  私は(たま)らず空港のすぐ横の売店に駆け込んで助けを求めた。 「す、すいませんンンン…!アァァァッ…!ドキドキが…!ドキドキがァァァッ…!止まらないんですゥゥゥ…!わ、私、どうかしちゃったんでしょうかァァァ…⁈」  取り乱し、興奮していた私をよそに、店員は冷静だった。 「アナタ、この星の人じぁないね?」 「は、ハヒィィィ…‼︎さ、先程ォォォ…!こ、この星を来てからァァァ…!ド、ドキドキが止まらないんですウウゥッ…!アァッ…!アァァァァッ…‼︎」 「ああ。それはこの星の至る所から分泌されている“ドキッソニン”と言う成分のせいだよ。ちょっと失礼するよ」  そう言うと、店員は何やら小さな機械を私の(ひたい)にかざした。“ピピピッ!”と音が鳴ると、店員は機械を確認した。 「数値が九を超えている。危ないところです。中毒症状を起こしかけていますよ。さぁ、これを飲んで」  私は店員から差し出されたカプセルを飲み込んだ。するとどうだ。瞬く間に先程までのドキドキが嘘の様に消えていってしまったのだ。 「ダメだよ。ちゃんと宇宙船(ふね)の中で、この星の説明を聞かないと。この星に来る人は皆んな中和剤()を宇宙船の中で服用してから降りて来るんだから。  この星では中和剤を飲まないと、ほんの数時間でドキドキし過ぎて、ショック死してしまうんだよ!」  私は今回の件を深く猛省している。今まで百以上の個性豊かな惑星(ほし)や、危険な惑星を旅して来ていたので、見た目が普通で、いかにも安全そうな、この惑星に油断しきっていたのだ。  この惑星での経験で、私は改めて宇宙は広く、多種多様で、人なんかの想像なんてものを軽々と上回って、時には簡単に命を落としてしまう事を再確認出来たのだった。  まぁ、何はともあれ、命が助かったうえに、こんな貴重な体験を詰めた事は私にとって、とてもプラスの出来事であったのだが、あのドキッソニンを中和して、分解する薬、ちょっと効き過ぎるうえ、効果が数週間以上、持続するようで、私が楽しみにしていた次の惑星での豪華で、盛大で、ド迫力の歓迎の(うたけ)を、少しもドキドキする事が出来なかったのが、残念で仕方ないのだ。終
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