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会話
『ねぇ、海。』
「何?」
『眠い。』
こんなふうに授業中に急に話しかけてくることも当たり前。
許されているのは僕たちが学年トップだからだろう。
成績重視の自称進学校は所詮そんなもんだ。
「そう、寝たらいいんじゃない?」
『ダメだよ。今授業中じゃん』
「君、授業聞く必要なさそうだけど」
『どういう意味よ』
「そのままの意味だよ。」
『とにかく、授業中の居眠りはダメでしょ』
「変なとこ真面目だね。だったら寝なきゃいい」
『眠い。』
「うん。」
しばらく沈黙が続く。
僕は先生が淡々と話す数式の解き方のコツをノートにメモしていく。
彼女と話し出して初めの頃からこんなへんてこりんな会話のテンポが生まれた。
最初は緊張もあったかもしれない。でも、今ではこの会話のテンポがちょうど良くて。これじゃないときっと違和感で。
今では全く緊張なんかは感じない。この会話が心地いい。
『なんか喋って』
「何を?」
『何か』
「何かって言われても困るんだけど、」
『眠っちゃいそうだから、私が眠らないように話しかけて』
「…、うーん、それじゃあ僕の話をしてあげるよ。」
『うん。』
「授業中に眠っちゃいそうだから何か喋ろって言ってくる人がいるんだ。
正直困ってるんだよ。助けてくれない?」
『何その話、嫌味?』
「いやいや、そんなわけじゃないよ」
『嘘だ!』
「嘘じゃないよ」
『嘘。』
「まぁ、別に話すのはいいんだけど、話す代わりになにか報酬が欲しいかな。」
『報酬?』
「何事もギブアンドテイク、だろ?」
『なるほど』
「たとえば、そうだな。
一言100円ってのはどう?」
『高い!』
「そんなにかなー?」
『私、今金欠』
「じゃあ、譲歩に譲歩を重ねて、帰りにジュースを奢ってくれないか?」
『だから、金欠』
「そんなに⁉︎」
『うん。』
「それは困ったね、」
『うん。困ってる。』
「じゃあ、勉強を教えてよ。」
『え?』
「今度テストがあるだろ?」
『あー、そういえばそうだね。
でも、海は別に勉強する必要なんてないでしょ。』
「あるよ。僕は君と違って秀才だから」
『なにそれ、また嫌味?』
「違うよ、褒めてるんだろ。
君は天才だって。」
『褒められてる気がしないんだけど、』
「うん、でも僕は褒めてるつもり。」
『…そっか』
「うん」
彼女は納得したような、してないような顔でタコ口をして口をムニムニと動かした。
彼女は僕の前でよくこの顔をする。
割と機嫌がいい時のサインだ。
「じゃあ、いつにする?」
『何が?』
「勉強だよ。」
『あー、うーん、』
「なるべく早いほうがいいんだけど」
『今日。』
「今日?」
『うん。』
「わかった。」
『うん! 場所は?』
「君の家がいいな」
『汚いよ』
「片付けてよ」
『えーーーーーーーーーー』
「お願い。」
『海が お願い。 っていうとなんか気持ち悪い。』
「それは失礼だろ。ただの悪口じゃないか」
『ごめん、ごめん。
わかった。片付けるから』
へへっと彼女は笑う。
まったく、失礼な。
「よろしく。
…ちなみにどれくらい汚いの?」
『うーん、虫は出ないように気をつけてる。』
「今の言葉で不安が一気に増したよ…
そういうのは大体虫が出てるのに気がついてないだけだから!」
『えーー、そんなことないと思うけど…
場所、変える?』
「…、いや、別にいいよ。
学校帰りにそのまま寄っていい?」
『うん。』
「…でも、汚いんでしょ?」
『片付けるの手伝ってもらえる』
「プライベートな空間じゃないの?」
『別に、そういう汚さじゃないから』
「そう、なんだ」
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