第3話 ぬらりひょん

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第3話 ぬらりひょん

 体格に似合う低音ボイスが発せられ周りの人間の声が一瞬聴こえなくなった気がした。  頼光は男の言葉が理解できなかった。 「ハァ? 死相?」 (いきなり失礼すぎだろ?) 「左様。お前さんの(まわ)りから凄まじい障気。というより妖気が噴き出しておる」 「そう言えばパチンコに負けたり、フラれたり、第一発見者になったりと思いあたるコトばかり。そんなコトが解る貴方はもしかして」 「うん? 何でしょう?」  大男は相変わらずニヤけ顔だ。 「銀座の母ならぬ銀座の父?」  ニヤけ顔が固まり面食らう大男。 「銀座の父の言うことなら仕方ないな。死相出てるかもしれん。ねえ、銀座のお父さん、あと何かオレのことわかる? あ、ひょっとしてタダじゃない?」  頼光はトレードマークである愛想笑いを浮かべ男の顔をのぞき込む。  その顔に男は懐かしさを感じた。 「ははは、お前さんはどう考えるか知らんが、これは運命。(あやかし)に縁のある(ひと)ということだ」  大男は怒りもせず、頼光の言葉を受け止めた。 「うーむ。妖(あやかし)か。最近、流行ってんのかな。(あやかし)で運勢を例えるの」 「まあ、一度相談してみるんだな。オカルト記者の鬼神頼光さん」 「銀座の父以外に信用できるところってあるのかな?」 「出会えるさ。それからだな。俺は銀座の父じゃないぜ。俺は……」  霧が晴れていくと共に姿を消していく大男は最後に言った。 「俺は、『ぬらりひょん』。妖怪だ」  頼光は呆然と立ち尽くしていた。  呆然と立っていたはずだったがいつの間にかお通夜は終わっていた。  とくに叱られることも無く頼光は無意識のうちにやり遂げていたのかと軽く考えた。  黒いスーツをさっさと脱ぎ、スウェットに着替え、敷きっぱなしの煎餅布団に寝転がった。 『俺は、ぬらりひょん。妖怪だ』  頭の中でその言葉が何度も繰り返される。  「うーむ。お通夜に妖怪って。ん? あの男、オレの名前、しかも職業も知っていたぞ! まさか、本物の占い師! 銀座の父! えーと、たしか『ぬらりひょん』って言ってたな。漢字だとどう書くんだ? 明日会社で調べるか!」  部屋で1人テンションを上げて頼光は寝に入った。 「『俺はぬらりひょん。妖怪だ』カッコイイなオレも取り入れるか。『オレは鬼神頼光。人間だ』」
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