第4話 頼光の来訪

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第4話 頼光の来訪

仕事場の小さなオフィス。  椅子に座る頼光とソファに寝転がって雑誌をパラパラとめくる上司の松本(45歳)が タバコをふかしている。 「……ふーん、(あやかし)ねえ。無神論者のお前がどういう風の吹き回しだ?」 「無神論は松本(ボス)もお互い様でしょうが。そんで オカルト雑誌の副編やってんだからノストラダムスも嘆いてますよ」 「どうせ読者も殆ど信じてねえっての」 「問題発言だ。誰か知らないですか? 銀座の父を超える、霊能者の人?」 「なんだ銀座の父って? ウソ臭いのが多いからな。そういうのは。第一お前、自覚があんのかよ? 霊障が出たとかよ」 「パチンコで負けた。彼女にフラれた。口座に五億入ってない。大変困ってますね!」 「パチンコは金も無いのにやるお前のせい。彼女にフラれたのはお前が金無いから。それになんだよ五億って。全部金じゃねえか。てか、俺の方が悲惨じゃないか。こちとら破産するわ。浮気されるわ。離婚とよぉ」  松本は雑誌を床に叩きつけて涙を流し始めた。 「いやいや、オレは二十二歳! 松本さんは四十五歳! 歩んできた年数が違うんだから! だいたい松本さんは可愛い娘さんがいるでしょうが! 会ったことないけど!」  頼光は慌てて松本にフォローを入れようとしたが無駄だった。 「何!? 貴様、俺の可愛い娘の『芳江(よしえ)』を知らないだと! お前、この仕事して何年になる!?」 「三か月です」 「お前に娘はやらんぞ!」 「そんな恐れ多いことできないであります!」   絡み酒よりはマシだと思いつつ、やはり絡まれるのは面倒くさいのだった。 「解ったから紹介してくださいよ! 霊能者みたいな人! また飲みに付き合いますから! オレのおごりで!」  松本は「おごり」と聞いた瞬間、涙が止まった。 「……マジ? じゃ何とかしてみようかな? この松本上司に任せておきたまえ!」 「良い人頼みますね。それからあんまり怖くなくて、そして料金が高くない人!」  取材費は頼光が支払うため、とくに値段を気にした。  「うーむ伝手(つて)がないこともないな」 「頼みますよ!」  頼光は松本と堅い握手を交わし、笑い合った。 「はぁ……あんな約束をしたが、連絡いつ来るかわからんし、約束自体忘れられておごらせられる……なんてことあったらどうしよ……」  約束から三日経って頼光は心配になって来た。  しかし、頼光も今はそれどころではなかった。   ノートパソコンと布団の周りにはエナジードリンクが所せましと転がっており、さらに片手に持って飲んでいる状態だ。  締め切り間際の原稿が三つ溜まっていたことに気付き、急いで取り掛かっていた。  頼光曰く「締め切りに追われるとみんなこうなる」とのこと。 「さすがに一週間サボッた分は大きいな! というか締め切り重なり過ぎだし、何で突然、一気に仕事舞い込んでくるんだよ! ありがたいけどさ!」  腕がさすがに痛くなったてきたので休憩がてら布団に入り込もうとした矢先パソコンの通知にメール一件追加の表示が付いていた。  期待せずにメールを開くと送り主は松本からだった。 「やばい! 催促か!?」    メールのにはこう書かれていた。  『 最愛なる部下、鬼神くん。  お前の捜してた 霊能者が見つかったぞ! 以前、ウチの雑誌にも協力してもらった人で『(あずま)凛縁《リンエン』という先生だ。  紹介状を送ったから視てもらいなサイ。  それから、料金というか、お礼だが、二万から五万 だってよ。  この辺がどーもインチキ臭いんだが とにかく行ってみてくれ。          頼りになるキミの上司、松本お兄さんより』  パソコンを閉じて、天井を見上げる頼光。 「(あずま)凛縁(リンエン)…ねぇ……いかにもな名前……って感じがするわ……」    (あずま)家が代々受け継いでいるという(あずま)道場は頼光のアパートから歩いて10分の所にあった。 「ここだったのか。剣道とか柔道とかやってるところだと思ってたが、まさか祈祷師とはね」  外見はただの道場で怪しいところは無いように見える。  事前に連絡はしてあるが、やはり、入るのにはためらいがあった。  道場に入った瞬間、外とは空気が違うのを感じた。  この世の邪気を隔絶しているのか身体が軽くなったように錯覚した。  人が円を描くように連なり中央に空間を作っている。   中央で長い髪を後ろに縛り、細い目が特徴の男が祝詞をあげている。   この男が(あずま)凛縁(リンエン)である。
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