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「瑠璃子ちゃん、京作さん、トントンちゃん。ハロゥ」 「鈴子ちゃん! 迎えに来てくれたの?」 「んふー。綺麗なお花が見たくってさぁ。うちのはもう終わりかけだから」  歩み寄った瑠璃子の腕にピタリと寄り添い、ふたり揃ってもう一度棚を見た。愛らしい黄色い彼岸花がいくつも満開になっている。 「咲いたねぇ咲いたねぇ。お見事よねぇ」 「うん、よかった……。鈴子ちゃんの言った通り、陽当たりによっては遅いんだね」 「それもあるけど、もっと陽に当てるために棚を作ってあげたのが決め手だったよねぇ」 「えっ、それは……。私、ただ、トントンさんが球根を食べて病気になったらいけないと思って……それで高い所に置きたくて……。そうしたら京作さんから頼んでくださって、魁さんと銀弥さんがあっという間に棚を作ってくれて……」 「あらぁん? そうなの? トントンちゃんのため? それでこんなに可愛くお花が咲いたんだ。それって……」 「それって……?」 「――なんだかますます嬉しいじゃない?」   鈴子は花に負けないほど美しく笑い、瑠璃子もトントンもまとめてギュッと抱き締めた。それからナムの頭も撫で、朗らかに引き連れつつ門を出ていく。 「行っておいで。気をつけて」  振り返ると、京作が優しい隻眼()をして瑠璃子を見ていた。  トントンも、早く早くとばかりに宙を掻き見上げている。 「……行ってきます!」  地に下り立ち、大好きなナムの尻を追ってぴらんぴらん歩き始めるトントン。散歩に出る度、大きな傷痕の残る小さな背を、瑠璃子はこれからもずっと見つめ続けることになるだろう。 「……ごめんね……」  そう呟くこともある。  しかしそういう時、トントンは少しも振り返らない。彼は犬で、そんな人間の言葉は解さないからだ。  その代わり。 「――トントンさんっ」  名を呼べば、口を開けてパッと振り返る。その無垢な丸い瞳には、愛と信頼の輝きがいっぱいに詰まっている。
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