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 そう――本来は。  瑠璃子がトントンを連れて散歩に出た、その事象さえ発生しないはずだった。 『すまないけど、今日の散歩はお休みしてね』  瑠璃子を狙う朱鳥会(すちょうかい)を警戒し、いつも欠かさず同行する京作である。  けれど、今朝はそれが叶わないほど体調が優れなかった。行くなというのは、瑠璃子をここに留め置いて護るのが精一杯という意味だったはずだ。  それなのに。  彼が自室に下がった隙を突き、瑠璃子はトントンを連れて出てしまった。 『京作さんに頼らなくても。……』 『ひとりでもちゃんとできるってところ、見せたいと思って。……』 『トントンさんのお世話くらい……、いつも通りやらなくちゃ。……』 「――」  瑠璃子は自罰的に(おもて)を上げた。  木戸の日陰に入った京作。外にいた時と違い、もう誤魔化しようがないほど顔色が悪いのがよくわかる。  が、辛そうな様子は見せない。闇より深い隻眼は、無傷の瑠璃子を映してただ凪いでいた。 「……怒っていらっしゃらないんですか?」 「ん……? そうだね。思ってもいないことはできない」 「あの飼い主さんは、全部私のせいだと言っていました……」 「おや。あの薄らハゲの――おっと――三栖(みす)の言ったことなんて、全部忘れていいんだよ。怖かっただろう、可哀想に」 「でも……言われた時、その通りだと思いました。私が悪かったんだって。私が、ちゃんと京作さんの仰る通りにしてさえいれば……。いいえ、そもそも……私があんな風に、トントンさんのお世話を軽く考えたりしていなければ。自惚れたりしていなければ。そうすれば、トントンさんは今頃」
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