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 言いながら、瑠璃子はストンと腰が抜けたようになり、視界が一気に低くなった。  尻餅をつかずに済んだのは、京作も一緒に屈んで支えたからだ。  群青色の瞳でふと見れば、着物越しに、彼の膝にひたりと両手を付いてしまっている。  真っ黒な生地だから、少女の白い手の頼りなさがくっきりと見て取れた。その上、指を置いたすぐ近くに、仔犬の白い抜け毛が数本付着しているのにもサッと気が付いた。  瑠璃子はそれらを見つめながら、青褪め、ほとんど表情筋を凍りつかせていた。涙腺だけが活発に働き、固い男の膝をしとしとと濡らした。 「私のせいで。……」 「……そんなことを言い出したら、瑠璃子ちゃん」  黄土色の頭のすぐ上から、冷静沈着な声が降ってくる。 「自分のことより、まず僕を責めるべきじゃないか?」 「え……?」 「元を辿れば、僕がちゃんと体調を管理して、今朝も君に付いていっていればよかったんだから。そうしたら万大(ばんだい)の一匹くらい、トントンが噛まれる前に追い払っていたよ」 「そん、な。いいえ、そんな」 「もっと言えば」  いつの間にか……瑠璃子の小さい両手に、京作の大きな片手が重ね置かれている。  温かく重たい手のひらだ。少女の手をふたつまとめて、上からゆっくりと握り込みながら――。  言葉だけは淡々と、枯れた花弁みたいにかさかさ滑り落としていく。 「もっと(さかのぼ)れば。君に何を言われても、捨て犬なんか拾わなければよかったし」 「京――」 「それ以前に、君をこの柊木町(ひいらぎちょう)に連れ込まなければよかったし」 「きょう、さ、く、さ……」 「そして……僕は最初から、君の前に現れなければよかったということになるね。……そういう巡り合わせにしておいたなら、今日トントンが噛まれるということもなかったはずだ」 「……!」  ぐしゃりと瑠璃子の顔が歪んだ。  それを間近に見つめる京作の隻眼もまた、腹でも刺されたような苦悶に満ちている。
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