23人が本棚に入れています
本棚に追加
言いながら、瑠璃子はストンと腰が抜けたようになり、視界が一気に低くなった。
尻餅をつかずに済んだのは、京作も一緒に屈んで支えたからだ。
群青色の瞳でふと見れば、着物越しに、彼の膝にひたりと両手を付いてしまっている。
真っ黒な生地だから、少女の白い手の頼りなさがくっきりと見て取れた。その上、指を置いたすぐ近くに、仔犬の白い抜け毛が数本付着しているのにもサッと気が付いた。
瑠璃子はそれらを見つめながら、青褪め、ほとんど表情筋を凍りつかせていた。涙腺だけが活発に働き、固い男の膝をしとしとと濡らした。
「私のせいで。……」
「……そんなことを言い出したら、瑠璃子ちゃん」
黄土色の頭のすぐ上から、冷静沈着な声が降ってくる。
「自分のことより、まず僕を責めるべきじゃないか?」
「え……?」
「元を辿れば、僕がちゃんと体調を管理して、今朝も君に付いていっていればよかったんだから。そうしたら万大の一匹くらい、トントンが噛まれる前に追い払っていたよ」
「そん、な。いいえ、そんな」
「もっと言えば」
いつの間にか……瑠璃子の小さい両手に、京作の大きな片手が重ね置かれている。
温かく重たい手のひらだ。少女の手をふたつまとめて、上からゆっくりと握り込みながら――。
言葉だけは淡々と、枯れた花弁みたいにかさかさ滑り落としていく。
「もっと遡れば。君に何を言われても、捨て犬なんか拾わなければよかったし」
「京――」
「それ以前に、君をこの柊木町に連れ込まなければよかったし」
「きょう、さ、く、さ……」
「そして……僕は最初から、君の前に現れなければよかったということになるね。……そういう巡り合わせにしておいたなら、今日トントンが噛まれるということもなかったはずだ」
「……!」
ぐしゃりと瑠璃子の顔が歪んだ。
それを間近に見つめる京作の隻眼もまた、腹でも刺されたような苦悶に満ちている。
最初のコメントを投稿しよう!