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「瑠璃子。食べて」
一旦、自分の方に引っ込め、蓋を取ってからまた差し向ける。
瓶の口から今にも星がこぼれ落ちそうだ。しかし、瑠璃子はただ戸惑いを浮かべるのみで、なかなか受け取ろうとしない。
「……なんだカネヒラ。今日はつまんねぇ形の瓶だな。あのピストル型の瓶が一等かっこいいのに」
向こう側から、銀弥の手よりも更に大きな手のひらが伸ばされて、代わりの受け皿を作った。先程まで眠っているようにも見えた魁だが、今はきっぱりと目を開けている。
カネヒラ、というのは銀弥のことである。銀弥が無類の金平糖好きで、いつも欠かさず持ち歩いているために金平と呼び始めたらしい。
「魁も食べよう」
「だったら白いのがいい。景気よく振って、白いのだけ三つ出せよカネヒラ」
「難しい。たぶん黄色や緑も一緒に出る」
「金平糖ってのは縁起がよくていいよな。白星が多めに入ってて、黒星は一個も入ってねぇんだもんな」
「……」
「縁起がいいよな」
「……」
一呼吸の後、瑠璃子の胸の前で瓶が振られた。ガラスの内側で、愛らしい色付きもしゃんしゃんと跳ねたものの、武骨な手のひらに落ちたのは白い粒ばかりだった。
「よぉし!」
「よし」
魁が満足そうにひとつ取り口に放る。
銀弥もひとつ拾って口に入れた。
瓶は引き上げていったが、大きな手のひらはまだ瑠璃子の前に留まっている。おそらく、最後に残った一粒がなくなるまでそうしているつもりだろう。
魁は、がりがりと噛み砕いてしまってから背を丸め、何の遠慮もなく瑠璃子の瞳を覗き込んだ。
「おい、お豆腐。縁起がいいから食っとけよ」
「……」
「なんでもう既にガックリしてんのかわかんねぇけど。向こうでお豆腐犬が死んでるなら、お前はとっくに呼ばれてる。呼ばれてねぇってことは、お豆腐犬はまだ死んでねぇってことだ。あとは運しかねぇだろ。白星食え」
「……」
魁に見据えられ、銀弥からも静かな視線を受ける。
少しずつ、少しずつ瑠璃子の手首が持ち上がった。固い小さな星が取られ、震えながら少女の唇に押し込まれる。
その時だった。
処置室の戸が内側から開き、疲れた顔の医師が姿を現した。
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