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と言いつつも、手元でシャラシャラと金平糖の瓶を弄んでいる察馬である。銀弥が落としたのを気にして拾ってきたのだろう。
そんな彼の、少し皺の入った目尻に突然の涙が滲んだ。魁がぎょっとして訊いた。
「なんでポテトセンセー泣いてんの?」
「いやだって……もう……感慨深いわぁ。金平糖大好きな銀弥君が、あんなに小さかった銀弥君が、泣いてる女の子慰めてる。こんなんぐっと来てしまう……ううう」
「そうかぁ? 俺だってカネヒラとは十年つるんでるけど、特に何も思わねぇな」
「そりゃだって君も若人だもの。銀弥君と同じ側。私に感動される側。私に愛でられる側」
「別にあんたに愛でてほしくはねぇんだけど……」
「だめだめ。可愛い顔しなさい。私がんばったんだから。犬は専門外なのにがんばったんだから。こんな時くらい、先生ありがとうと可愛い顔して言いなさい」
「ええ……?」
眉を寄せて渋る二メートルの魁を、医師は期待に満ちた眼で仰ぎ続ける。
やがて横から銀弥がソロソロと寄ってきた。すぐさま魁に捕まり、察馬の前に立たされる。白く滑らかなその頬に容赦なく指を食い込ませ、口の両端を大きく引き上げてやってから、
「ありがとうポテト先生」
と小声で言った。
銀弥自身も「あひはほー」と言った。
「……あー……これはこれで。……」
察馬は眼鏡を白く反射させつつじっくりと頷いた。
それから、改めて寝台のトントンに顔を向ける。
注目の集まった気配を察し、瑠璃子が兎のような瞳をして振り返った。ぎゅっと唇を噛んだ後、膝を床に付けたまま見上げて言う。
「……ありがとうございました。先生」
「可愛い顔」
「可愛い顔だな。あれが」
「茶化すな! 泣いてる子を」
短く叱り、咳払いして口を開いた。
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