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 短い秋が終わろうとしている。  それでも、大きな四枚の木戸が開け放たれ、陽の明るさが広く差し込んできていた。  ここは元米屋、今はただのがらんどう。が、箒に塵取り、机に金魚水槽、自転車やら洗濯機やら犬小屋やらと、物が増えてごたごたしてきたがらんどうだ。  犬小屋の中を覗いてみれば、やたらと上等な毛布が敷かれていることに驚くかもしれない。  その真ん中で、白い犬がころんと丸くなり、鼻先を自分の腿下に入れる形で眠りこけていた。が、外から「だははははは……」と楽しそうな声がしたのに気づいたものか、眠たげな顔をしたまま起き上がる。  小屋を出れば、石造りの床に小さな爪が当たり、カチャカチャと四足分の音が立つ。半分だけ目を開けて、尖った鼻先で匂いを取りつつ顔を上げるトントンを、魁が「おー。起きた起きた」と面白がった。 「お豆腐けーん。ちょっとでかくなってきたなぁ。よーし」  輝く革靴で歩み寄ると、首輪から綱を外し、大きな両手でしっかりと胴を持つ。そのまま高々と頭上まで抱え上げられ、揺らされて、トントンの目は黒豆のようにつやつや丸くなった。三角耳が横に倒れ、毛の長い曲がり尻尾も激しく左右する。 「おー。だはははは。ここで小便されたら悲惨だな」  仔犬の興奮が極まる直前を見計らい、そっと地面に下ろしてやった。  次にトントンが見つけたのは銀弥だ。今日も学帽に学生服、短い外套を羽織った黒尽くしの美青年は、ちょうど表の木戸を閉めて振り返ったところ。脚に跳ねて纏わりつく白い毛玉を、屈んで優しく撫でてやる。  銀弥の膝に前足がかかり、半ば後ろ足だけで立っているような状態だ。魁からすると、トントンの背中が正面からよく見える。  かつて察馬医師が治療の為刈り取った毛皮は、幸い大部分が元通り再生していた。ただし、やはり縫い跡だけはだめだったらしい。柔らかい真っ白な毛並みを、ギザギザと走る線が大きく割っている。
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