2/4
前へ
/37ページ
次へ
「うーん。……」 「どうかした?」  顎に手を当てる魁へ銀弥が尋ねた。その綺麗な頬をトントンが熱心に舐めている。金平糖の甘い匂いでもするのだろうか。  魁はしかめっ面で言った。 「いやだってなぁ、真っ白くて弱そうだからお豆腐犬って呼んでたのによー。なんつーか……そんな派手なギザギザ傷の入ったお豆腐もねぇよなぁと思って」 「仕方ない」 「仕方ねーけど。……でもやっぱ新しい名前付けるわ。そうだな。『ジグザグハゲ』と『カミナリハゲ』……どっちがいいだろうな」 「え?」 「は? いやだから、『ジグザグハゲ』と『カミナリハゲ』、どっちがいいだろうなって」 「……どちらもだめ」 「……あ?」  魁の目が一気に鋭くなった。  銀弥はゆらりと立ち上がる。手放されたトントンは、対峙する両者の間を楽しそうに駈け回り始めた。 「おー……? なんだカネヒラァ。一丁前に文句言いたそうじゃねぇか……」 「当然。そんな酷い名前は絶対に容認できない」 「へーえ、いつの間にか偉くなったんだなぁお前。飼い主でもねぇくせによぉ」 「魁だって飼い主じゃない。……そもそも名前はトントン。最初からそう。そう呼べばいい」 「――ぜっ……てぇぇぇ……ヤダ!」 「俺もいやだ。『ジグザグハゲ』も。『カミナリハゲ』も。――どちらもいやだ!」 「相撲だコラァァァ!」 「うおおおおおおッ!」  地に拳を下ろすこともしない。疾風のように外套が翻り、学帽が高く宙を舞う。  銀弥渾身の体当たりを真っ直ぐに受け、魁の革靴がジュウッと煙を上げた。  同時に、長い左腕が覆い被さるように腰へ下り、がっちりと学生服のベルトを掴んでいる。  が、それは潜り込んだ銀弥も同様だ。両手で魁のベルトを握り締め、更に突き上げるように額で押す。  ガクッと力が抜けたのは、魁の足が銀弥の脹脛(ふくらはぎ)を内側から払ったからだ。  しかしすぐさまバランスを取り直し、再び鋭く突貫する。二メートルの魁も大股を広げて踏ん張り、力と力が龍虎の如く拮抗した。 「おおおおおおおお!」 「ふんんんんんんん!」
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加