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「うーん。……」
「どうかした?」
顎に手を当てる魁へ銀弥が尋ねた。その綺麗な頬をトントンが熱心に舐めている。金平糖の甘い匂いでもするのだろうか。
魁はしかめっ面で言った。
「いやだってなぁ、真っ白くて弱そうだからお豆腐犬って呼んでたのによー。なんつーか……そんな派手なギザギザ傷の入ったお豆腐もねぇよなぁと思って」
「仕方ない」
「仕方ねーけど。……でもやっぱ新しい名前付けるわ。そうだな。『ジグザグハゲ』と『カミナリハゲ』……どっちがいいだろうな」
「え?」
「は? いやだから、『ジグザグハゲ』と『カミナリハゲ』、どっちがいいだろうなって」
「……どちらもだめ」
「……あ?」
魁の目が一気に鋭くなった。
銀弥はゆらりと立ち上がる。手放されたトントンは、対峙する両者の間を楽しそうに駈け回り始めた。
「おー……? なんだカネヒラァ。一丁前に文句言いたそうじゃねぇか……」
「当然。そんな酷い名前は絶対に容認できない」
「へーえ、いつの間にか偉くなったんだなぁお前。飼い主でもねぇくせによぉ」
「魁だって飼い主じゃない。……そもそも名前はトントン。最初からそう。そう呼べばいい」
「――ぜっ……てぇぇぇ……ヤダ!」
「俺もいやだ。『ジグザグハゲ』も。『カミナリハゲ』も。――どちらもいやだ!」
「相撲だコラァァァ!」
「うおおおおおおッ!」
地に拳を下ろすこともしない。疾風のように外套が翻り、学帽が高く宙を舞う。
銀弥渾身の体当たりを真っ直ぐに受け、魁の革靴がジュウッと煙を上げた。
同時に、長い左腕が覆い被さるように腰へ下り、がっちりと学生服のベルトを掴んでいる。
が、それは潜り込んだ銀弥も同様だ。両手で魁のベルトを握り締め、更に突き上げるように額で押す。
ガクッと力が抜けたのは、魁の足が銀弥の脹脛を内側から払ったからだ。
しかしすぐさまバランスを取り直し、再び鋭く突貫する。二メートルの魁も大股を広げて踏ん張り、力と力が龍虎の如く拮抗した。
「おおおおおおおお!」
「ふんんんんんんん!」
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