茜さす

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茜さす

西の地平線。 眼下の端から端に横たわる山並みへいよいよ陽は沈み始める。 朝から劫火(ごうか)のごとくめらめらと燃えたぎっていたそれは、今や熾火(おきび)のようにひっそりと深紅の熱を宿しているにすぎなかった。 「うーっす」 「お疲れさん」 義兄弟は互いを見つけた瞬間に、言葉を交わす。 「今日も生き延びたな」 「ああ」 貞任(さだとう)が先にそう声をかけると、経清(つねきよ)は微かに頬を緩めながら尋ねる。 「怪我はないか」 「ああ。何とかな」 「それは良かった」 次は貞任が経清の身を案じる。 「お前は? 」 経清は、自分の胸に拳をぐっとあてがいながら答えた。 「このとおりぴんぴんしとる」 「のようだな」 優しげな表情を浮かべていた貞任だが、今度はみるみるうちに目付きが鋭くなっていった。そしてこうぼやく。 「清原(きよはら)め。いきなり裏切りやがって。 あいつらが出てこなければこんな戦などしなくて済んだものを。今頃、平穏な日々を過ごしていたというのに」 それから一つ大きな溜め息をつくと落胆の表情を浮かべる。 「陸奥(むつ)出羽(でわ)永年(ながねん)培ってきた関係も、光頼(みつより)の代で(しま)いだな。家族同然のものに刃を向けるなど。堕ちたものよ」 そこまで聞くと経清がやっと口を開く。 「まあまあそう熱くなるな。 これは仕方のないこと」 貞任は心外だというような面持ちで口をあんぐりと開けた。 「お前、あいつらを庇うのか」 経清はにこりと笑ってから、真剣な顔つきに戻った。 「そういうつもりはない。 だが、此度の元凶は全て(みなもと)にあり。光頼(みつより)殿もかなり直前まで悩まれていたのだと思う。でなければ、もっと早くに兵を出せていたはず。 源は清原に数多(あまた)の貢ぎ物を持ち込みながら幾度も足を運んだというではないか。そしていくら追い返されようとも、『源は清原の臣下になるから』と誓ってまで戦の協力をしつこく懇願していたと」 貞任は腕を組むとまだ不満げな顔をさせていた。 「ふんっ。まあ確かに光頼はともかく。 総大将の武則(たけのり)は本気で我らを潰しにきているではないか。 あんな弟ゆえ、無理矢理に圧をかけられて兄も苦渋の決断をしたと見える。よくよく考えてみれば肩身の狭い哀れな当主よ」 だな、と相槌をうつと経清は続けた。 「出羽は出羽なりの言い(ぶん)があるだろう。 『安倍め。度々朝廷に楯突きおって。 振り回される我らの身にもなってみろ』 ……とな」 「違いない」 貞任は経清が全くの正論を返してきたので、思わずふっと頬を緩めて(うつむ)いた。そして暫くすると顔をあげて尋ねる。 「こんな戦とっとと終わらせて、会いたかろう。清丸(きよまる)に」
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