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 その夜も、帰宅した私はバッグをソファに放り投げると、すぐさまあの子のいる窓際に直行した。 「ただいま、ミドリ。遅くなってごめんね」  そう語りかけながら、私は両膝をついて植木鉢のそばに屈み、ちょんちょんとてっぺんの葉に触れた。ミドリは応えるように幹を左右に揺すってみせた。これは嬉しいときのサインだ。 「新しい施工主さんが私のデザインをすごく気に入ってくれたの」  ミドリは私の大切な食話植物だ。一メートルほどの背丈に成長した姿に目を細めつつ、いつものようにジョウロでたっぷりと水をあげながら、新しい職場にも慣れて、設計の仕事が軌道に乗ってきたことを話して聞かせた。  ミドリはまるで相槌を打つように、よく茂った深碧の葉を動かし、唇に似た二枚葉をパタパタと開閉させた。  話が終わると、よかったねと言わんばかりに茎のいたるところにいくつもの小さな蕾を膨らませ、あっという間にたくさんの可憐な白い花を咲かせた。 
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