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「すまん、遅れた! ……というか、また雨か。くそっ、やっぱりおれって雨男なのか。こんな日に限って、情けない……」
右往左往する人達の間を掻き分けて真っ直ぐこちらへ来てくれたのはモスグリーンのレインコートに黒いレインブーツという出で立ちに、わたしがプレゼントしたエメラルドグリーンの傘を持つ大好きな彼だった。
「なんか、毎度毎度ごめんな。嫌だよな、たまに会うのに雨ばっかりで、」
相変わらず雨音は強烈だけど、彼の申し訳なさそうな呟きは何故だかかき消されることなく耳に入ってくる。
「しかもいつも待たせてるし、呆れるよな?」
「そんなことないよ!」
わたしは暗い顔をしている彼の手を握る。
「わたし、時雨くんを待つのが好き。だってね、時雨くんがわたしに近づいてくると、雨音がどんどん激しくなるんだよ?」
「……それはなんていうか、申し訳ない様な、」
「申し訳ないことなんてない! わたし、それがとっても愛おしく感じるの! 嬉しいの、時雨くんがわたしに会いに来てくれたんだって!」
時雨くんはわたしの言うことをポカンとした顔で聞いていたが、徐々に頬を赤く染めていく。
「そ、そうか、お前がそう言ってくれるなら、おれは雨男でもいい気がする! その、おれもお前と会えるのは雨だろうがなんだろうが嬉しいぞ!」
こっちまでつられて赤くなってしまうじゃない! そういう所だぞ、時雨くん!
「よし、なら行こう! 今日はたくさん楽しもうな!」
「うん!」
ザーザーという激しい雨音を聞きながら、わたし達のデートはいつも始まるの。
でも、大丈夫。大好きな彼と一緒なら何だって楽しいのだから。
終
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