小さな秘密

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小さな秘密

   二人の関係はなんとなく知れ渡り、バレンタインデーの頃にはクラスの多くがこの関係を知っていた。  バレンタインデー当日の放課後、学級委員だったぼくには児童会という有難いお仕事が入っていた。 (今日は特に長いなぁ…)  やっと終わったのが5時半。 (特別な日だったんだけどな…)  通常の下校時間はとうに過ぎ、(今日はもう帰ってるよな)と思いつつ静かな校舎を教室に戻ると、めぐみが立っていた。 「あれ、何で?」 「今日の児童会、結構長かったね」 「うん、まぁ…」 「沙也加が上の踊り場で待ってるよ」 「えっ…。あっ、ありがと」  うちの学校には最上階の4階から更に上に続く階段があり、上り詰めるとそこは倉庫になっていた。  教室を出て、ドキドキしながら階段に向かう。  上を見ても誰もいない。 (……)  一段ずつゆっくり上がるが、やはり踊り場に姿は見えない。 (ほんとにいるの?)  めぐみに騙されたか、いやそんな訳は…と思いながら、踊り場をゆっくり回ると…。  沙也加が立っていた。 「わっ、びっくりした。もう……」  思わずそんな声が出たと思う。  沙也加は、まだちびだった自分よりも背が高く、当時既に女子としての存在感が結構あった。  胸に可愛い袋を抱えている。  お互いまだ小6のがきんちょだったけど、その姿はなんだかとてもきれいだと思ったのを覚えてる。  息を飲み、あらためて(なんて言おう…)と思う間もなく、 「はい、あげる」 と言って、沙也加は慌てて階段を駆け下りて行った。それはそれは緊張した顔つきで。 (な、なんだよ。逃げなくても……)  ぽつんと残された自分は、その袋の大きさと重さに驚き、早く中を確かめたかったが、校舎を締められるんじゃないかとそれが気になり、やはり踊り場から急いで下りた。  教室に戻るとめぐみはもういなかった。  荷物を持って、玄関に向かう階段を下りている時、 「ねえ!」 と呼び止められた。 (えっ)  上を見ると手すりから沙也加が顔を出している。まだどこかにいたのか。急いで逃げたくせに今度は呼び止めるんだ、と思いながら、 「何?」 と言うと、 「お返し、あるよね?」 と聞いてきた。 (もらい逃げするわけないじゃん)と思いながら、 「あるよ、もちろん」 と答えた。 「約束よ」 「うん」  当たり前のように返事をした。この袋のデカさに応えるにはかなりお年玉を使うことになるが…と思いつつ。
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