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小さな秘密
2月も中旬を過ぎれば、卒業まではカウントダウンとなる。自分も含め、クラスは何だか妙なテンションに包まれていった。
感動的な最後を、と思っておられただろう先生の計画をこの妙なテンションで邪魔ばかりしていたのは、間違いなくぼくらのグループだった。そのことを思い出す度、今も申し訳ない気持ちになる。
結局、沙也加にお返しを渡す日はやって来なかった。
可愛い恋を持続するには、二人はあまりに稚すぎた。
いや、きっと「二人は」、ではなく「ぼくは」。
次第に春めく中で、沙也加を意識しながら、沙也加と素直に喋れなくなった。
思えばぼくらは二人きりで、気持ちをきちんと伝え合ったことが無かった。
いつもグループでふざけ合って、気持ちは繋がっていると何となく信じて、それを時々プレゼントの交換で確かめた。そんな関係で安心していた。
だが、やはり言葉で気持ちを伝えるべきだった。
それは何だかとても気恥ずかしいことではあったが。
やがてぼくは別の女友だちと話す機会が多くなり、沙也加も次第にそうなった。それは当たり前だが、あまり面白いことではなかった。
そして、卒業の頃にはとうとう沙也加と話すことは無くなった。次に言葉を交わすのが高校卒業の時だと、その頃は全く知りもしないで。
卒業、入学、受験、目まぐるしく変わる季節の中で、10代は猛スピードで駆けていった。
ただ、当時、何かが二人の中でほのかに芽生え、やがて消えていったのは確かだった。
それはその事が遥か遠い昔話になった今でも、昨日の事のように鮮やかに思い出せる、妻には言えない大切な秘密だったりする。
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